医師が選んだ医事紛争事例 45 院内の医療安全体制に不備あり  PDF

(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
A医療機関から紹介入院。頭部MRIにて左脳梗塞・多発性脳梗塞と診断した。その1週間後に目眩が出現した。嘔吐したのでA医療機関耳鼻咽喉科を受診したところ、頭位変換性目眩と診断された。同日リハビリ中にチアノーゼ発症。数日経って右腰痛でナースコールがあり、高熱の発症の後、血圧低下を認めたので、ボルタレン坐薬・酸素吸入・抗生剤投与したが、家族にはこのまま解熱しなければ3日で危険な状態になると説明した。血液培養で肺炎桿菌(+)、敗血症と診断した。症状は一旦軽快したが、念のためにB医療機関に転院させた。なお、点滴に使用した針はエラスター針で20G~24Gで、感染予防の対策として3日ごとに交換し、衛生管理に努めていたが、点滴漏れを認め抜針した経緯があった。
患者側は、点滴により敗血症となったのは過誤であるとして、医療費の減免等を要求してきた。
医療機関側としては、敗血症の原因は腸腰筋膿瘍から惹起されたものであると判断し、医療行為と因果関係のある可能性も否定はしないが、予見不能で不可抗力として過誤ではないと主張した。
紛争発生から解決まで約1年2カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側は、敗血症の原因は一応、腸腰筋膿瘍としていたが、実は院内で静脈炎との意見もあり、患者側への説明にはすでに静脈炎と伝えてしまっていた。改めて院内事故調査会を設けて、統一見解を纏めるべきケースであった。なお、医療過誤の有無については、エラスター針交換時に培養をすべきだった等の反省点が挙げられるが、患者のその後の状態は良好で実損はないと考えられた。感染源は不明のままであった。なお、医療機関は明確な主治医制を採っておらず、一人の患者に多数の医師が関与していた。これでは事故や紛争が発生した場合に、患者対応に不都合が生じるリスクが減少しないので、院内システムの再考をすべきであろう。
〈結果〉
院内の体制等に問題は認められたが、敗血症と医療行為との因果関係が、調査をしても明白にならなかったことと、事故に関わる直接的な実損が認められないこと、予見可能性がなかったことを患者側に誠意をもって説明したところ、患者側からクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。

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