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政策解説 国保都道府県化 2018年度施行へ

第1回 都道府県化する国保財政の仕組み

 国は医療制度改革を着実に進め、医療・介護サービスにかかる公費負担抑制、抱き合わせで安倍成長戦略に資する産業化を目指している。先行して進められる医療・介護サービス提供体制改革は、地域医療構想を通じた病床数抑制や「新専門医制度」を通じた養成段階からの医師の在り方の変質を目指す。

 ただし、提制改革だけで国の医療制度改革の目的が達成されるわけではない。これは提供体制と保険制度の「一体改革」であり、都道府県が提供体制と保険財政を一体的に管理・抑制させられる体制づくりなのである。

 2018年4月、市町村国民健康保険(以下、単に「国保」と表記)が都道府県化する。これこそが、本当の始まりであり、改革の全面的スタートになる。

2年を切った国保都道府県化

 国保都道府県化は、15年5月に第189回通常国会で成立した「医療保険制度改革関連法(持続的な医療保険制度等を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律)」に基づくものである。法施行は18年4月。実施まで2年を切っている。

 法成立によって毎年約3400億円の「追加公費投入」が一部先行実施され、15年度より約1700億円(低所得者の多い保険者への財政支援分)が保険者に配分されている。残る1700億円は都道府県化の実施後、投入開始となる。

 国保都道府県化は、都道府県が保険者となり、市町村が事業から撤退するものではない(第2919号にて詳細既報)。確かに都道府県は保険者になるが、市町村も引き続き保険者である。都道府県単位なった国保財政運営を都道府県が担い、市町村は引き続き保険料率の決定、賦課・徴収、資格管理、保険給付、保健事業等を担う。

 財政の流れは、市町村は都道府県への「納付金」を支払うため、保険料を徴収し、支払う。都道府県は保険給付に必要な費用を全額「交付金」で支払う仕組みとなる。

 詳細な制度運用については、この間「国民健康保険制度の基盤強化に関する国と地方の協議」(国保基盤強化協議会)の「事務レベルWG」で協議・検討されてきた。

 その結果物として16年4月28日、厚生労働省保険局長が二つの通知を発出した。

 「都道府県国民健康保険運営方針について」と「国民健康保険事業費納付金及び標準保険料率の算定方法について」である。以下、密接不可分な二つの通知を通じ、浮かび上がる都道府県化した国保の姿を捉えておきたい。

都道府県に策定義務—国保運営方針

 通知で策定要領の示された「国保運営方針」は、国民健康保険法第82条の2を根拠に全都道府県に策定義務がある。運営方針は都道府県と市町村が一体となり、「各市町村が事業の広域化を推進」する基本であり、国保運営協議会(都道府県に新設)への知事の諮問、協議会の答申を経て知事が決定する。同方針には、(1)国保財政(2)標準保険料(3)保険料徴収(4)給付の適正化—等に関する事項が記載される。

国保財政—医療費動向と将来見通しの記述

 運営方針は「国保財政」について、「医療費の動向を把握し、将来の国民健康保険財政の見通しを示し、その要因分析を行う」よう求める。医療費動向は、都道府県全体・市町村単位の5歳ごとの年齢階層別1人当たり医療費や全年齢階層の1人当たり医療費。医療の提供状況(医療機関等の数、病床数等)と1人当たり医療費の相関関係、地域(市町村・二次医療圏等)ごとの診療種別医療費・疾病分類別医療費を記述させる。財政見通しの推計にあたっては、「第3期都道府県医療費適正化計画」(18年〜22年)の「推計方法」を「参考とすることも考えられる」。

 新たな医療費適正化計画は医療費支出目標を明記し、提供体制改革(病床機能分化と地域包括ケア)と後発医薬品普及等の保険者機能強化によって、医療費抑制を都道府県単位に推進させる仕組み(第2964号にて既報)である。これが同じ都道府県による国保財政見通しと一体のものとなるのは当然の話であろう。

 つまり、都道府県では医療費適正化計画を機体に、国保運営方針と地域医療構想が両翼を構成する形になる。

単年度均衡原則と解消対象としての「一般会計法定外繰入」

 国保の財政構造は法定されている。医療給付費総額を定率国庫負担32%、国・都道府県の調整交付金がそれぞれ原則9%で全体の5割を構成し、残る5割は被保険者の保険料と各種財政支援策で構成。市町村は国保特別会計を立ち上げ、運営している。だが実際のところ、国保は年齢構成が高く、医療費水準が高い。被保険者の所得水準が低い。保険料が高額になりがちで、収納率が低位に止まるといった「構造問題」を抱えている。それゆえに、少なくない市町村が実施しているのが、一般会計からの「法定外繰入」である。

 「平成26年度市町村国保の財政状況」(16年2月9日公表)によれば、単年度赤字保険者は56%に及び、法定外繰入を行った全保険者の総額は3738億円で、うち「決算補填目的」の繰入が3472億円で91.8%。うち「保険料・税の負担緩和を図る」ための繰入は944億円を占める※1。医療費増加にあっても低所得者層が多く、保険料引き上げに踏み切れない市町村は、単年度赤字を回避するために、一般会計からの繰入をせざるを得ないのである。また、「前年度繰上充用」なる手法もある。これは次年度の収入を当該年度の赤字解消に充て、収支を均衡させるものである。

 しかし国は要綱においてこう釘を刺す。国保は「一会計年度単位で行う短期保険」であり特別会計は「収支均衡」が原則であり、必要な支出を保険料や国庫負担金などにより賄うことで均衡させなければならない。市町村の「保健事業にかかる繰入」はともかく、決算補填等目的の繰入は「解消または削減」する対象である。

納付金と標準保険料率

 要綱は正しく保険料を徴収すれば市町村の国保特別会計は赤字にはならない、と主張する。「財政支援措置の拡充や保険給付に要した費用は全額交付する仕組み」の導入と「市町村標準保険料率に依って保険料を賦課・徴収すれば」である。

 前者の財政支援措置の拡充とは3400億円の追加公費投入を指し、「全額交付する仕組み」は、保険給付に必要な「交付金」を都道府県が支払うことを指す。

 後者の「標準保険料率」は、都道府県が市町村に対して示すものだが、要綱は「将来的な保険料負担の平準化(≒統一保険料化)を進めるための指標として、全国一律の算定方式により、すべての市町村について示す」ものと述べる。

 国保が都道府県化しても、保険料率を市町村が設定するのは変わらず、市町村も引き続き国保特別会計を持つ※2。

 都道府県が市町村に収めさせる「納付金」は標準保険料率と表裏一体の関係にある。

 納付金は各市町村の医療費実績に所得水準や年齢構成を加味して算定されるが、市町村が納付金支払いに必要な財源を確保できるよう、国が示した一律の計算式に基づく「標準的な保険料率」が算出され、提示されるのである。

 標準的な保険料率を採用するかどうかは、市町村の判断に任される。もしも、市町村が標準保険料率を採用した場合、その金額に「法定外繰入」など反映されないため、繰入を行ってきた市町村では、医療費水準が劇的に低くならない限り、従来よりも保険料額が高くなることは間違いない。

高い保険料による市民・市町村の苦悩は解消されない

 こうした仕組みのもとでは、市町村が独自に実施してきた法定外繰入が存続されるかどうかが、実施が近づくと地方議会での議論の焦点となってくるだろう。特に小泉構造改革以来、市町村の財政状況は一般的に悪化しており、これを機に繰入を止め、標準保険料率をストレートに採用する市町村も出てくるだろう。しかし、被保険者サイドからいえば、払えないものは払えないのである。

 もともと市町村が法定外繰入をせざるを得なくなっているなら、保険給付に対する国庫負担引き上げがなされるべきだった。今回の都道府県化は、この点を何ら解決しない。

 むしろ、各市町村は保険給付額を減らし、納付金額を引き下げることに努力せねばならなくなる。その有効な手段として、今国が強く打ち出しているのが保険者機能強化の決め手としての「データヘルス事業」である。これこそが地域の医療の在り方、医師の医療提供の姿に変質を強いる恐れがあるものだが、次回以降、検討したい。

※1 国保新聞・第2116号・2016年2月10日発行

※2 但し、地域の実情にあわせ、二次医療圏あるいは都道府県ごとに保険料を「一本化」することも可能とされ、例えば大阪府は統一保険料率採用を予定。

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