政策解説「新専門医制度」はどこに向かうのか  PDF

政策解説「新専門医制度」はどこに向かうのか

新専門医を機構認定でなく学会認定の方針に

 一般社団法人日本専門医機構(池田康夫理事長)が6月9日、2017年度からの 「新専門医制度」は、機構認定ではなく「学会認定」とする方針を固めた。同日には社会保障審議会医療部会(永井良三座長)も開催され、制度実施の「延期」の決定はせず、「機構や学会の検討や対応を見守る」としていた。

 新しい専門研修プログラムを用いるか、従来通りの形で専門医養成を行うか、機構の準備している専攻医登録システムを利用するかしないか、17年度からの専門医養成の在り方の選択が、基本診療領域の各学会に委ねられた。

試行か延期か 議論激しく

 ここに至る2週間ほどの間に、同制度をめぐって激しい動きがあった。

 5月30日、厚生労働省社会保障審議会医療部会「専門医養成の在り方に関する専門委員会」(以下・専門委員会)第3回会議が開催され、厚労省は「新専門医制度」を2017年度から「試行」の形で実施することを提案した。また18年度以降の在り方は今後専門委員会で議論するとされた。

 厚労省作成のペーパー「平成29年度における専門医養成に向けた関係者の役割(案)」は、「試行」に向けた「専門委員会」「各都道府県の協議会」「各領域別研修委員会・学会」「日本専門医機構」それぞれの役割分担を示した。

 専門委員会が専攻医の「定員枠」を、17年度について過去3年間の採用実績に基づき、診療領域別・都道府県別・プログラム別に設定するとした。

 各領域別研修委員会・学会は実質的なプログラム認定を担うとともに、都道府県からの定員増やローテート期間等のローテート方針の改善要望等の調整も担うとされた。

 つまり、仕組みの中核を決するプログラム認定は学会が担うことで、日本専門医機構の役割は極めて限定されたものとされた。この提案に対し、委員からは「プログラム制を走らせること自体に反対」「試行してしまうと止まらなくなる」と、試行への反対意見もあったという。

 永井委員長は「学会の意見を聞かなければならない」と、新専門研修プログラムで実施するか、従来通りの研修プログラムで実施するか、次回会合までに学会にヒヤリングすると提案していた。なお、ヒヤリングの結果、17年度に新専門研修プログラムで実施する学会が一部となる場合の定員設定等の在り方等は未定である。

日医と四病協は延期求める

 6月7日には日本医師会と四病院団体協議会が緊急記者会見し、「地域医療の観点から懸念が残るとされた診療領域のプログラム」の開始延期等を求めた。また文中には「すべての医師が専門医を取得するものではなく、女性医師をはじめとした医師の多様な働き方に十分配慮した仕組みとすること」との要望も記された。

 これを受ける形で同日、塩崎厚労大臣は談話を発表。要望の「趣旨を十分に理解」すると述べた上で「医療関係者と機構と学会が協力」して取り組みを進めるように求めていたのである。6月9日の医療部会で永井氏はこの大臣談話を引き、「あくまでプロフェッショナルオートノミーで実施すべき」と、医療部会が立ち入って延期を明言することを避けた形である。

混乱のしわよせは若い医師たちに

 「新専門医制度」の全面実施の可能性は潰えたといってよさそうだ。しかし、学会によっては機構と協同し、試行といえるような実施に踏み出すところもあるという。何れにせよ、初期臨床研修を終え、来年度から専攻医研修を受けようとする若いドクターが混乱に直面させられている。何度も問題視されてきた身分問題についても、機構や医療部会が真摯に検討したとはいえない。

進められる医師管理に注視を

 忘れてはならないのは、保険医定数制や自由開業規制等の医師コントロールの導入に向けた動きは引き続き進んでいるということだ。

 この間、新たな医師管理の仕組みづくりは、「新専門医制度」だけではなく「地域医療構想」との両面から追求されてきているのである。これを見落としてはならない。

 6月3日、厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会は正式な中間とりまとめを公表し、2040年に医師の需要と供給が逆転し余剰になるとの推計をあらためて示し※、医師偏在対策として「保険医の配置・定数の設定」や「自由開業・自由標榜見直し」を提起した。

 しばらく「新専門医制度」をめぐる混乱は続くだろう。それに見え隠れしながら、医師コントロールの仕組みづくりは進んでいくはずである。国の思惑がどこにあるのか、いつも把握しておく必要がある。

 ※この内容については本紙2962号4面「政策解説・医師需給推計と「偏在解消」で詳述している。ご参照されたい。

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