続・記者の視点(60)
子どもの貧困は保健・医療問題である
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
子どもの貧困に対する社会の関心が高い。
2013年の国民生活基礎調査によると、12年の世帯所得の分布から算出した18歳未満の子どもの相対的貧困率は16・3%で、同年齢の人口に掛けると約200万人にのぼる。とくに、ひとり親世帯の子どもの相対的貧困率は54・6%に達し、先進国の中で最悪である。
強調したいのは、子どもの貧困が、経済・社会・教育だけでなく、保健・医療の問題でもある点だ。
貧困家庭の親はたいていの場合、懸命に働いていても収入が少ないか、病気、障害などで本格的に働けないかである。そういう親は時間的・精神的に余裕がなく、知識や情報も足りない。子育てへの関心や意欲が乏しいこともある。依存症をはじめとする精神疾患や、離婚、児童虐待、配偶者間暴力の頻度も高い。
それらはどういう影響を子どもに与えるだろうか。
第1に栄養・身体への影響である。朝食抜き、まともに食べない日もある。食べ物が炭水化物に偏っている。夏休みになると給食がないせいでやせてしまう子もいる。
第2に健康管理。病気や虫歯があっても、経済的に苦しくて医療にかかれない。子ども医療費の助成制度は広がってきたが、自治体によって対象年齢や自己負担額の差が大きい。子どもの健康状態への親の関心が低いこともある。
第3に人間関係。新しい衣類や学用品を買えない、習い事やお金のかかるクラブができない、友だちに誘われても有料のレジャーに行けない、といった状況が続くと、仲間に加われなかったり、いじめを受けたりすることがある。
第4に学力。知的発達や勉学の習慣は成育環境に左右される。絵本・児童書・おもちゃがない。勉強部屋がない。塾に通えない。参考書を買えない。経済力の差が学力の差、進学率の差につながる。
第5に心理。親が仕事に追われてかまってくれない。親子の対話が少ない。ストレスの大きい親からガミガミ言われる。家庭内の不和が多い。それでは自分の将来や勉学に前向きになれない。放課後や夜の居場所がなかったり、学力の低下が重なったりすると、非行に走る場合もある。
とりわけ重要なのは自尊感情・自己効力感の低下で、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼす。自分の存在を大切に感じられず、未来への希望を持てないと、うつ、自傷行為、摂食障害、薬物やアルコールなどへの依存症、自殺につながりやすい。虐待を受けていた場合はなおさらだ。
大人でも貧困と健康には密接なかかわりがあるが、子どもの貧困がもたらす健康影響は、メンタル面を中心に青年期、成人後まで長期にわたる点が深刻である。
13年6月に子どもの貧困対策法が成立し、子どもの貧困は、法律に基づく国・自治体の行政課題になっている。
医学・医療界は健康・医療の観点から実態や影響を解明し、対策を提言してほしい。日常診療や学校保健の現場は子どもの貧困に接する最前線である。症状だけでなく「生活」に着目し、福祉とも連携することが重要だろう。