医師の診る風景 和束より(8)  PDF

医師の診る風景 和束より(8)

柳澤 衛(相楽)

看取りカフェ

 「在宅医療・介護連携推進事業について」「介護保険の地域支援事業の取り組み例」などの文書と付き合いが始まりました。

 地域のケアマネと一緒に多職種の連携のネットワーク「きづがわネット」が構築され、病院地域連携、認知症家族の会、行政高齢福祉課、介護施設、訪看、介護士、の皆さんと顔を合わす時間が増えてきました。住民の参加を得た事業ということでは、以前和束町でやった「認知症カフェ」などもそうなのですが、今回は「看取りカフェ」に進化しました。

 2025年には死亡者が160万人を超し、病院での死亡がこれ以上望めないため在宅、あるいは地域で病院外での死亡にならざるを得ない。このための準備(?)をしようということかと、我流に解釈しています。

 「認知症カフェ」の時は認知症の病態や予防、しっかり食べましょう、運動しましょう、と多職種での連携が目に見える形で可能だったのですが、「看取りカフェ」となるとどうしたものかと、何度も多職種で検討を重ねました。患者の住職の方から、宗教家としての参加の希望もありましたが、今回は医療福祉関係者で行いました。

 看取り=死の瞬間、ではなく、その死を迎える方と過ごした経験や、その介護を家族で共有したことを踏まえて、ご自身の、人生の終わり方について話し合うというカフェにしようということになりました。カフェ当日は社会福祉協議会など各方面に協力を得て開催となりました。参加者の平均年齢は70代後半あるいは80代になってしまいました。いつもカフェを開催すると参加年齢の高齢化が問題です。2025年になれば病院ではなかなか死ねませんよ、というお話を看護師にしていただき、小生の話です。

 参加の皆さんは、高齢でもお元気そうで、女性がほとんどでしたので、まだまだ大丈夫と判断して、「皆さん一度死んでしまったことにして、思い残してしまったことを話しましょう」と問いかけました。リビングウィルやDNR、延命治療拒否の本当は? 亡くなった旦那の悪口とお墓の話などなど…。

 男性はご自身の死などとても間近になれば話題にしにくいと思われるのに、またまた日本の女性のたくましさを感じたカフェでした。準看取られ世代と感じていても、当のご本人たちの意気軒高なこと、逆に力をいただいたような気持ちになりました。多職種で参加する高齢者とのカフェはたのしみです。

 社会資源の限られた地域、過疎地での看取りをはじめとして医療、福祉、介護の連携は顔の見える関係が大事であり、この大切さを住民全員で共通認識されれば、たとえ「川下に資源がなくても」なんとかなるように思います。多くの絵に描いた餅が示されていますが、地域での「人づくり」を第一に考え、経済的な誘導をえさにしない医療体制、地域づくりが大切と思います。(おわり)

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