2016診療報酬改定こうみる(5)  PDF

2016診療報酬改定こうみる(5)

重症児の在宅移行促進鮮明に

小児科 保険部会理事 森 啓之

 今回の改定では、外来は、かかりつけ医機能を強化し、入院は急性期の超重症児・慢性の難病を持つ児への態勢をとっている医療機関をさらに支援する一方、急性期を過ぎた重症児の在宅医療への移行を促進する、という国の意図が鮮明に反映されたものとなっている。

 外来では、小児かかりつけ診療料が新設された。届出が必要であり、施設基準としては、「小児科又は小児外科医の常勤医師の配置」「小児科外来診療料の算定」「時間外対応加算1又は2の届出」に加え、さらに、「初期小児救急への月1回以上の参加」「乳幼児健診の実施」「定期予防接種の実施」「15歳未満の超重症児又は準重症児の在宅医療の提供」「幼稚園の園医又は保育園の嘱託医に就任」のうちの三つ以上に該当する、となる。また算定要件のア「急性疾患への対応、アトピー性皮膚炎・喘息などの慢性疾患の診療・指導」、イ「他の医療機関の受診状況の把握」、ウ「健診状況の把握や発達段階に応じた助言・指導」、エ「予防接種の実施状況の把握、スケジュール管理」については、おそらく多くの小児科専門診療所で満たしていると考えるが、オ「電話等による緊急の相談等への原則常時対応」、カ「診療内容の書面交付による説明と同意」、さらに留意点の「原則として1人の患者につき1カ所の保険医療機関が算定」については、地域・診療所の診療実態によっては実施困難なところもあろう。

 なお、今回の改定では小児科外来診療料の届出は不要となり、月ごとに変更することも可能となっている。その他、細かいことではあるが、小児科療養指導料の対象疾患の拡大(小児慢性特定疾患も可、270点)、鼻腔・咽頭拭い液採取(1日につき1回、5点)、喘息治療管理料2(6歳未満、初回のみ、280点。スペーサーの費用に充当できる)なども忘れずに算定したい。

 入院では、小児入院医療管理料3、4、5の重症児受入体制加算の新設(1日につき200点)、NICU管理料・PICU管理料の対象疾患の拡大・算定日数延長と重症児の急性期態勢を支援する一方、小児慢性特定疾患患者の小児入院医療管理料の20歳未満までの算定期間延長(以前は15歳未満)、小児がん拠点病院についての加算(750点)の新設がされた。

 その他、通院・在宅・精神療法の児童思春期精神科専門管理加算イ(1回につき500点)・ロ(初診から3カ月以内に1回限り1200点)の新設など、より高度な専門診療を必要とする慢性疾患への診療態勢についても評価されている。さらに小児入院医療管理料の包括範囲から「在宅療養指導管理料およびその材料加算」「在宅医療の薬剤料・特定保険医療材料料」が除外され、在宅医療の導入に関する診療報酬(在宅人工呼吸指導管理料や人工呼吸器加算)を退院月に算定できることとなった。また在宅医療では、救急搬送診療料の新生児加算(1500点)・乳児加算(700点)の引き上げられた他、機能強化型の在宅療養支援診療所などの「看取り実績」に「超重症児・準超重症児の診療実績」(1年間に15歳未満の超・準超重症児に対する総合的管理4件以上)が加わっており、症状が固定している超重症児の在宅医療への移行を推進しようとする意図があると考える。ただ、人工呼吸管理が必要な児の在宅移行などの保護者への想像を絶する負担を考えると、意図通り機能するのかは、疑問ではある。

 

緊急帝王切開復点も産科への追い風となるか疑問

産婦人科 京都産婦人科医会 社保担当理事山下 元

 今回の診療報酬点数改定で産婦人科医がこぞって注視していたのは、帝王切開の新点数であった。帝王切開は産科を代表する手術なので、この点数の動きが、厚労省の産科医の仕事への評価と捉える医師は多い。

 表に帝王切開の新点数とこれまでの点数の変遷を示した。

 帝王切開はハイリスクな手術である。執刀した医師が警察に逮捕されたいわゆる大野病院事件も、帝王切開であった。2006年のあの事件をきっかけに、産婦人科医師のお産離れが生じ、産婦人科入局者が減少して、大きな社会問題となった。この傾向に歯止めでも掛けようとしたのか、左表に見られるように、急に帝王切開の点数が上昇した。

 その後、事件の医師は無罪が確定し、政府の少子化対策政策が喧伝される。次第に産科の現場にも安心感が漂いはじめた2年前、帝王切開点数が急に減点されたのである。現場には、勃然と不満の声が湧き上がった。誰が見ても、下げ幅が大きい。他の手術に比して、産科の代表手術が不自然に切り下げられていたのだ。日本産婦人科医会および日本産婦人科学会も動いて、2年間にわたる帝王切開点数善処への要望活動を繰り広げた。

 厚労省側は、手術点数を下げた理由は外保連試案(外科系学会保険連合が作成した手術の値段表)に則しただけ、という姿勢であったと思う。ただ、たとえ産婦人科医会の要望に理解を示したとしても、厚労省がいったん切り下げた手術点数を元に戻した前例はないといわれていた中での点数改定発表だった。

 注目の16年度改定結果では緊急帝王切開が復点し4年前の点数にもどった。予定して行う選択帝王切開の方は復点なし。

 今回、「前置胎盤または32週未満の早産の場合の帝王切開術」は廃止となり、代わりに「複雑な場合」2000点加算(複雑の要件は5項目)が新設されて、実際はその加算に組み入れられている。

 経緯は以上の通りだったが、医会は要望が概して受け入れられたと評価している。昨今行われた手術に、この新点数をあてはめたところ、ほぼ元の請求金額に回復する試算も伝えられている。しかし産科への追い風が吹いているとは言えない。

表 帝王切開の点数の変遷(単位:点)
 
     緊急帝王切開の点数 選択帝王切開の点数 前置胎盤等帝王切開の点数
2008年度 17,800       15,000        —
2010年度 19,340       19,340        21,700
2012年度 22,160       22,160        24,520
2014年度 20,140↓        20,140↓        21,640↓
2016年度 22,200          20,140        新請求法
(今回)                       24,200(緊急+加算)
                           22,140(選択+加算) 

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