小児科診療内容向上会レポート  PDF

小児科診療内容向上会レポート

 小児科診療内容向上会を京都小児科医会との共催で3月26日、こどもみらい館にて開催した。京都小児科医会理事・社会保険診療報酬支払基金京都支部審査委員の天満真二氏による「レセプト審査 変更点と留意点」の解説に続き、花園大学社会福祉学部教授の橋本和明氏による特別講演「発達障害のある青年や親の生きにくさ—生活の逸脱と子育てのつまずきを考える」が行われた。参加者は72人。

思春期以降の発達障害に焦点 子育て世代の障害者支援重要と訴え

 これまでにも発達障害をテーマにした講演は多くありましたが、今回は思春期以降にフォーカスしたもので大変興味深いものでした。橋本教授は家裁の調査員としての長い経験から発達障害者が関わる違法行為を多く経験しており、最初に発達障害者が持っている特性からのつまずきや逸脱行動が違法行為に至る要因になっていることを解説されました。

 思春期に直面する課題は多くありますが、一般的にはバランスの良い自我形成とともに乗り越えていくものです。しかしながら発達障害者が持っている特性は、社会性の獲得、プライバシー概念の欠如、自己コントロールといった点が弱点となり逸脱が多くなってしまうということです。特に思春期では性教育の難しさやインターネットでの性知識の氾濫などから性に関するつまずきが多いことも指摘されました。そしてそれらのつまずきから問題行動に行かないための工夫として、明確なルール作り、思春期前の段階でできることを考え、家族の協力や地域、社会とのつながりなどが、青年期の課題への直面と障害受容の促進に繋がっていくとのことでした。発達障害は周囲から障害がわかりにくく、個人差も大きいので障害を見落として特別の配慮が取られないことも多く、それらが虐待に繋がっていることも指摘されていました。

 講演後半では発達障害を持つ保護者の話でした。こういう視点も現場では何となく感じるのですが、講演として話しを聞くことは少なく、大変参考になりました。子育てをするということは「社会性」「共感性」「柔軟性」の三つの要素が有りますが、発達障害をもつ保護者は(1)自分自身の社会性の弱さ(2)子どもへの共感性の欠如(3)柔軟性の欠如 からそれぞれ不適切な子育てに陥ってしまいます。

 そしてこれらから解放されるには多様性の視点からの援助が大事とのことでした。子どもはさまざまな形で大きくなっていくのであって、発達の仕方は千差万別、いろんな子育てがあってよいのだと言う視点から発達障害を持つ保護者を支援していくことの重要性を強調されました。大人である保護者への支援となるとつい抽象的な口頭による支援がなされがちですが、視覚化、具体化を心がけ、ハードルを下げてできるところからスタートする配慮が重要であるなど示唆に富む話しでした。

 最後に「カサンドラ症候群」と、子育ては自然になされるものではなく「子育ては技術である」と話されて終了しました。時間の関係でカサンドラ症候群について充分な説明はなされませんでしたが、重要な概念、認識として理解しておくべきかと思いました。

 以上要約しましたが、語り尽くせぬくらい内容は充実していました。外来では日常的に発達障害の子どもが来院しますが、それと同じくらいに発達障害を持つ保護者がいるのだということを改めて認識しました。子育て支援の中でそういう保護者へも投げやりにならないで工夫をした支援を心がけたいと思いました。今回の企画に感謝申し上げます。

(宇治久世・幸道直樹)

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