第3回日本酒講座
お酒って、本当に美味しいですね!
宇田 憲司(宇治久世)
2015年11月28日妻と連れ立ち、伏見区は月の桂・増田徳兵衞商店に赴き、協会の第3回日本酒講座に出席した。私は、妻と異なり遺伝的にアルコールに弱く、宴会では、ビールコップ2杯、清酒は猪口で10杯までと緊張して参加しており、話だけならばと安心して同伴した。
到着すると、古道を隔てて母屋と酒蔵とに分かれたこじんまりした佇まいで、アレッ月桂冠とは別の店だ、とまずは不見識を露呈した。母屋に入り、「日本酒ができるまで」というビデオをみた後、14代目当主の泉彦改め増田徳兵衞社長から講義を受けた。酒造りは、即物的には、蒸し米に麹を作用させ、コメの澱粉をブドウ糖に分解し、次にイーストでアルコールにまで分解することと知った。よい酒を得るには、温度・湿度条件を含むよりよい行程を演出しよい条件に恵まれる必要があり、何よりもよい米、よい水、よい働き手が必要で、腐敗菌の混入などは破算ものの御法度とのとのことであった。
伏見では、特によい地下水に恵まれ守り続けており、よい米には、丹波地方の酒造好適米「祝」を地元で無農薬栽培して収穫でき、田植え・稲刈りイベントにも繋がっている、とのことであった。
昔見た映画「越後つついし親不知」(今井正監督1964年)では、農作業のない冬場に主人公が季節労働者として伏見の造り酒屋に出稼ぎにくる場面があったが、この日、店の酒蔵に案内されると酒造りがなされており、今や伏見最大手の月桂冠が1961年機械化を伴う四季醸造蔵を建設以降、こちらが基本とのことであった。
なお、「月桂冠」とは勝利と栄光を象徴しての11代大倉恒吉氏1905年の酒銘で、「月の桂」は、姉小路有長卿が八幡宮で詠んだ「かげ清き月の桂の川水を夜々汲みて世々に栄えむ」から、13代目増田徳兵衞氏が1964年に「どぶろく」濁酒を一般消費者向けの「にごり酒」に商品化した酒銘で、文化人が多種多様に集いあう京都地域ならではのパイオニア的ブランドとも評価されている。
京都の造り酒屋の大家族を描いた映画に「小早川家の秋」(小津安二郎監督1961年)がある。早くに妻に死に別れた当主万兵衛(中村雁治郎)がかつての愛人つね(浪花千栄子)やその娘との交流に心の安らぎを感じる映像では、12代目がモデルともあるが、あるいは、年齢を意識しつつあったであろう監督自身の心の揺らぎの表現でもあったろう。利き酒を相伴し、気に入った平安京、柳、にごり酒純米大吟醸を各1本ずつと、味わいも酒銘も興味深い吃驚仰天や抱腹絶倒を数本ずつ注文して、店を後にした。いやあ、伏見の酒がこんなに美味しいとは、こういう機会がなければ、なかなか気付きませんでした。