心地よい演奏にいざなわれて サロンコンサート開く  PDF

心地よい演奏にいざなわれて サロンコンサート開く

 協会は、京響メンバーによるサロンコンサートを2月28日に開催。参加者は28人となった。以下、参加記を掲載する。

一度きりの芳潤な刻を共有して

あべじゅん婦人科 阿部 純(宇治久世)

 今回は、わたしが青春の頃、LPで愛聴していた“ブラームスのクラリネット五重奏曲”との情報を得て早速、申し込んだ。春一番がすでに吹いたとはいえ、暖かい日でこれは少しブラームスにはふさわしくないかなと思いながら6階に昇った。

 弦楽器のメンバーは第2バイオリンを除き前回と同じで、ビオラの金本洋子さんからブラームスはその作品をシューマンの妻クララに献呈していたことを知る。次に、本日の主役のクラリネット奏者の鈴木祐子さんが、2本の長短のクラリネットを携えて現れ、今回は曲想に合ったA管を吹かれるらしい。以下、ブラームスの心情に思いを馳せつつメモを取りながら聴き進んでいった。

 1楽章はクララへの果てることのない思慕の念が炸裂していて、晩年の作品とは思えないほど若々しい。2楽章はおそらく転調していて作曲者の“独白”ではないか。後悔や自己反省を読み取ることができる。クラリネットのソロがゆっくりと階段を昇るように駆け上がり最高音に達するところはいつも痺れてしまう。3楽章はすこしふっ切れた感情が読み取れる一方、傷ついたブラームスが仲間や隣人から励まされて元気を取り戻していくようだ。最終楽章はおそらくキリスト教徒であった彼が神との対話を通じて治癒していくプロセスを描いているのではないか? 以上、全体的にはブラームスらしいブルーな色調で覆われているものの、時に跳躍するような活動性や遊び心もあり、クララへの激しい思いがうまく昇華されている作品だろう。

 終楽章を終え、5人の演奏者がすっくと息をそろえて立ち上がられた際は、この難曲を弾き切った充実感であふれ、顔もかなり紅潮されていたようだ。このような小さな空間で室内楽を楽しむほうが演者との距離も近く、音の粒や息使いもヴィヴィッドに感じられて宝石のような思い出として残る。京響のメンバーの鮮度のよい演奏に感謝しつつ、是非、来年度も素敵な演目をお願い申し上げます。

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