医師の診る風景 和束より(4)
柳澤 衛(相楽)
デイサービスの人気者
2000年に介護保険制度が制定されました。早速、介護認定審査会の委員を任命されました。医師以外と審査をともにすることが初めてだったこともあり、真面目に調査員と医師意見書の誤差について検討しました。翌年にはケアマネジャーの資格も取得すべく、久しぶりの受験生気分を味わいました。そのころから、訪問診療患者が減りだしたように思います。
景気の後退などもあり、過疎化も進行して開業時より1000人ぐらい人口減になりました。05年には町内に特養ができました。ここにデイサービスセンターがあります。開業時に「開業医は宣伝とか、患者のお迎えなどはするな。迎えが必要なら患者宅に行け」と言われていたので、実行していました。ところが、介護事業はお迎えがいいのです。寝たきり予防や認知予防にデイサービスを利用する方が増えました。施設の介護職からは、利用者の発熱などの報告があります。
デイサービスに訪問診療には行けませんが、ボランティアで午後の時間に顔を出します。デイサービスの広間の入口に近いテーブルには開業時からの患者Hさんがいます。禿げた頭を撫でてから通過するのですが、大きな声で(高度の難聴です)「やぶ医者が来た」とアナウンスされます。すると左片麻痺のSさんが右手を振ってくれます。隣のMさんが「先生、明日受診します」と声をかけてくれます。来院はないのですが。次のテーブルではYさんから「かゆみ止めください」と要求されます。女性ばかりのテーブルで、一人Fさん(米寿を過ぎています)が心不全にもかかわらず、女の中に男が一人と悦に浸っています。普段診察していない方も何かと話しかけてこられます。「分かりました、今度受診してくださいね」といつも診察している振りをして離れます。
やっとその奥の畳に発熱のKさんがおられ、少し風邪気味と言っておられました。夜診の前に家族に来院するよう伝えてほしいとスタッフにお願いします。ここで訪問診療になったら、時間も節約できるし、楽だろうなと思いながら、人気者のデイサービス慰問がおわり皆さんに手を振って退場します。少しの認知など、ものともしない強者ばかりです。