主張/診療報酬改定論議に割り込んできた『保健医療2035』とは?  PDF

主張/診療報酬改定論議に割り込んできた『保健医療2035』とは?

 2035年を見据えた保健医療政策のビジョンと銘打たれた『保健医療2035』は、策定懇談会により昨年まとめられたものである。策定委員には若い世代の厚生労働省官僚や大学教授などが中心となり、自分らなりに20年後を見据えた保健医療のパラダイムシフトを提言したという。しかし、その内容のほとんどはこれまで政府系会議で方針化・決定された医療政策の焼き写しである。これらの認識・思想の呪縛の中でしか発想できなくなっているようだ。そもそも策定会議の性質は「非公開の自由闊達な議論」の“懇談会”であり、個人的認識や発想を披瀝した提言に過ぎない。しかし、問題はこの提言に塩崎厚労大臣がまる乗りして推進本部を設置したうえ、今次診療報酬改定内容にも言及するなど看過できない存在になってきていることである。

 中身だが、まず主タイトルが「2035年、日本は健康先進国へ」。となると現在は健康後進国という認識かと思いきや「我が国は…高い平等性・手厚いセーフティネット・フリーアクセス・世界一の良好な保健アウトカムを、比較的低い医療費で達成してきた。これは、先達の叡智と国民の努力の賜物である」と高く評価している。ところがここで「少子高齢化の急速な進展、疾病構造の大幅な変化」を対置し、「これまでの保健医療制度を規定してきた根底の価値規範、原理、思想を…根本的に転換すべきである」と過去の全否定を行う。そうではなく、過去の医療政策やその思想の何が間違っていたのか、その中で世界一を実現させてきた叡智や努力とは何であったのかを冷静に分析・評価・批判し、良いところを社会情勢の変化に対応させて修正・補強していく作業こそ責任ある官僚の政策立案力であろう。

 ビジョン第1の柱が「リーン・ヘルスケア」で、意味は「価値の高いサービスをより低コストで提供すること」とある。内容的に政府・財界がかねがね主張してきて、今次診療報酬改定で導入された「アウトカム評価」と「費用対効果」とを合体させたものに類似し、さらに「ビジョン達成に最も重要なものは、透明かつ説明責任の確保」とあり、これは既出の「見える化」に過ぎない。いずれも目新しいものではない。また第3の柱がグローバル化であるが、これは医療を目玉にした「新成長戦略」そのもので、すでに経産省は医療システムの海外輸出を強力に後押ししている。これも新鮮味はないし、そもそも他国の医療制度中に新システムを闖入させる儲けビジョンとは如何なものか。我が国はOECD諸国中、国民人口比で医師数下位・看護師数中位と後塵を拝し、医療費のGDP比でも下位の劣後国である。パラダイムシフトを言うのであれば、まずは劣った医療諸策を転換し、人的・金銭的資源を日本国内の医療(更には介護・保育)充実に投入すべきである。

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