医師が選んだ医事紛争事例(36)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(36)

様々な問題が認められた透析患者の大量出血による死亡

(70歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 体重は26・9?。4年前から当該医療機関で透析を受けていた。透析を開始した後に臀部の褥瘡処置を行った。約3・5時間後に3カ所で警報が鳴り、複数の看護師が3人の患者の状態をほぼ同時に確認しに行った。ただし、他の患者に気を取られて、40秒程度、当該患者の確認が遅れた経緯があった。後にこの40秒間で約200出血していたことが推測された。看護師が当該患者を確認したところ、顔面に血液が付着していたため、ポンプを停止して穿刺部を確認したが、抜針された状態で穿刺部より大量出血していた。なお自己抜針をしていたことが後に判明している。この時点でレベル300、呼吸停止であり、緊急に蘇生術を開始したところ、快方に向かい通常と変わらない様子になったと思われていたが、6時間後に容態が急変して心停止で死亡した。全体で出血量は650と推測された。

 患者側は、死亡したのは、医療機関側に何らかの過誤があるとして、数千万円を賠償請求してきた。

 医療機関側としては、以下の点について過誤があったとした。

 ?当該患者が過去に自己抜針した経緯があったので、両手を拘束することになっていたが、実際には片手しか拘束していなかった。A看護師は患者の状態が安定していたため、両手拘束を遠慮したとのことだった。

 ?透析機器の設定値を静脈圧下限150としなければならないところを、B看護師が誤って50と入力したため、警報の鳴るのが遅延した。それによって患者の出血の発見が遅延し、約450の出血となった。

 ?警報が鳴った後に、C看護師が当該患者の元へ行ったが、他の認知症患者が騒いでいたため、当該患者の状態を確認せずに警報だけスイッチをオフにして、その認知症患者の様子を見に行ったため、40秒程度、当該患者の異常の発見が遅延した。それにより更に約200の出血となった。なお、100万円を見舞金として提示したが拒否された経緯があった。

 紛争発生から解決まで約1年間要した。

〈問題点〉

 医療機関側が主張する?〜?の過誤は確かに認められ、死亡との因果関係も否定できない。なお、それ以外にも以下の問題が認められた。

 ?拘束をする同意書は取ってあり、患者側のサインもあったが、医療機関側の明記も説明した者のサインもなく、どこが発行したものか、誰が説明をしたのかも不明の不備のある同意書であった。確認したところ、看護師が説明したとのことであったが証拠はなかった。

 ?カルテ記載が時系列になっておらず、更に日時の書き間違えもあり、証拠保全をされた場合には改竄を疑われる可能性があった。

 ?見舞金100万円の提示は葬祭費用の名目のつもりであったらしいが、院内の事故調査委員会も開催していない段階で、調査も結論もなく患者側に提示すること自体、額の多寡に関わらず問題行為である。

 ?〜?によって完全な過誤と判断するが、死亡との因果関係については、患者の素因として心疾患・栄養失調状態・糖尿病があり、更に大量出血の事故後6時間を経過してからの容態の急変・死亡ということで、必ずしも事故と死亡との因果関係が100%あると断言できなかった。

〈結果〉

 医療機関側は医療過誤を認めるとともに、死亡との因果関係に関してもほぼ認め、賠償金を支払い示談した。なお、賠償金額は当初、患者側が請求した半額であった。

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