医師の診る風景 和束より(2)  PDF

医師の診る風景 和束より(2)

柳澤 衛 (相楽)

それでも茶畑と朝霧の景色が一番

 地域包括ケアシステムが中学校区に構築されるようです。まさに和束町には和束中学が1校であります。ちなみに学校医は私です。病気も介護も生活支援、生活予防も和束町で完結しなさいと2014年度診療報酬改定では言っています。

 和束町には地域包括支援センターがあります。ケアマネは空席です。それでも活発に仕事をされており、週に1度は相談を受けます。3カ月に1度は和束ネットワークとして、近郷の介護従事者との連絡会があります。理学療法士を招いての話や商工会での村おこし、独居老人への配食のことなど社会資源の少ない中でのサポートについて話し合いがされます。

 配食は食中毒の恐れから11月から3月までの6回です。1食200円で自宅まで届けます。コンビニ弁当より安く内容は意外と豪華です。1例は肉団子のあんかけ、春雨サラダ、かぼちゃの煮物、漬物、柿、ご飯です。社会福祉協議会に寄付されたお米と福祉センターの調理室での食事改善事業の会員の手作り、民生委員の配達で成り立つ事業です。数少ない町内の零細仕出し屋にはできない相談です。町内17カ所で毎月開催される、「ふれあい」という名のボランティアによる茶話会の開催。社会資源のない中、福祉課と共同で活躍しています。

 「ふれあい」は地域の老人会のおしゃべり会みたいなものです。高齢の方と元婦人会の70歳ぐらいまでのボランティアの方によって運営されています。高齢の方は少しずつ減っていき、ボランティアは毎年1歳ずつ高齢になられます。新陳代謝がありません。同じことがゲートボールでも起こっています。新しい方が参加されません。消滅地域と言われているこの地域を象徴するように、ゲートボールは風前の灯となっています。それでは少し若い方は何をしているかといえば、グラウンドゴルフをされています。少しの雨では中止などない本来のゴルフ精神をもって、茶畑で痛めた、まがった腰でホールインワンを目指して夢中です。これらの娯楽に参加していただけない高齢の男性の余暇の過ごし方が超高齢社会の中での盲点のように思われます。パチンコ屋もありません。せめてもの野菜つくりも野猿の餌になり、ストレスの原因になります。

 それでも和束の茶畑と朝霧の景色が一番と、住み慣れた地域での臨終を願う方が多いです。

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