医師が選んだ医事紛争事例 (35)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例 (35)

8万分の4の確率、インターフェロンで皮膚潰瘍

(30歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 慢性C型肝炎で約半年間、インターフェロン(ペグイントロン)通常の半量(50)を週1回皮下注射で投与していた。終了後4カ月目でウイルス陰性を維持していた。なお、患者は当初より強い不眠症であったことから、インターフェロンによる鬱状態や精神不安定、自殺企図を予防するため、半量にした経緯があった。更に注射による瘢痕を回避する目的で、左右の腕に交互に、同部位に刺入しないようにしていた。患者に対する副作用の説明としては、発熱、食欲不振、倦怠感、眼底出血に加え精神症状の悪化についても言及して了解を得ていた。

 患者側は、インターフェロン注射部位(左右上腕にそれぞれ1カ所)に直径約10mmの皮膚潰瘍が発症したとクレームを表明し、その後に額は明確ではないが、弁護士資格を持たない代理人を介して賠償請求をしてきた。

 医療機関側としては、過去に患者から注射部位の硬結・発赤について尋ねられた際に、皮膚潰瘍が発症した例は1例のみの報告しかなく、その例も治癒していたことから、医師が「まず問題ないことが殆どである」と答えた。なお、後に再調査したところ8万人の使用者に対して4例皮膚潰瘍が報告されており、3例は未回復であることが判明した。ただし、注射の方法に問題はなく、極めて稀な症例と認識していた。

 紛争発生から解決まで約2年1カ月間要した。

〈問題点〉

 診断、注射の適応・手技に問題は認められない。また、説明義務に関しても、皮膚壊死の報告は8万分の4で予見不可能と判断できる。したがって、医師が皮膚壊死に関して事前に説明していなくても、説明義務違反に問うことはできないと考えられた。患者はC型肝炎に関してはほぼ完治したと推測された。少なくとも治療は終了しているので、事後処置として問題はないだろう。したがって医療過誤は認められない。患者側は非弁護士で患者の離婚した元夫の友人と称する人物を代理人として、医療機関と交渉している様子が窺われたが、医療機関は、患者本人に対してのみ説明・交渉をすべきである。

〈結果〉

 医療機関側が改めて医療過誤が認められないこととともに、今後の対応は弁護士を介して行うことを患者側に伝えたところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決と見做された。

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