新連載/医師の診る風景 和束より(1)
国が推し進めている社会保障制度改革では、地域ごとで医療を完結することが目指されている。しかし、各地域の特性や抱える問題などが違うにもかかわらず、各地域の実情がまったく考慮されていない。京都府内でも、北部・中部・南部でそれぞれ地域医療の特徴がある。今回の連載では、ドクターの日常診療を通じて地域医療の現状を浮き彫りにしていただく。
「消滅」危機感広がる茶源郷の町
柳澤 衛(相楽)
筆者ごあいさつ
1952年京都府木津川市(旧山城町)生まれ。金沢医大卒、麻酔科医をへて、1990年より和束町で柳沢活道ヶ丘(いくじがおか)診療所を開設。和束町在住26年目。趣味はサッカーだけ。相楽医師会監事、和束中学校学校医、多職種連携ネットワーク「きづがわネット」事務局長など郡部の開業医です。
京都府は南北に長いところで、北部の過疎は京都市内でもよくニュースで紹介されていますが、私の住んでいる相楽郡東部も過疎が進行している地域です。旧相楽郡は平成の町村合併で7町村が1市3町1村になりました。近鉄京都線沿線の学研都市と言われている地域は日本でも有数の人口増加地域ですが、東部の和束町、笠置町、南山城村は過疎地域で将来消滅地域と言われています。
西部の木津川市と精華町で人口10万9231人、東部は3カ町村で7980人(和束町3959人、笠置町1369人、南山城村2652人、2015年国勢調査速報値より)。面積比は2対3で人口密度は西部が986人/km2、東部は52人/km2と、綾部市の104人/km2より人口密度は低い地域です。
笠置町は戦前に史跡名所に指定されており、後醍醐天皇の行在所があるといっても、今どきの若人には意味がわからないようで、観光業も成り立ちません。わが和束町といえば、最近は日本で最も美しい村連合に入り、桃源郷ならぬ茶源郷として、お茶の佃煮などで、ただ今売り出し中です。京都府景観資産に登録された、山頂まで続く茶畑は雑踏にまみれた方にとっては心癒す風景です。町の産業は和束茶です。急峻な山肌に作られた茶畑は寒暖の差が大きく、山間部特有の朝霧で育った、おいしい煎茶を作り出しています。
しかし、生産する側からいうと、斜面での農作業は過酷で変形性膝関節症と変形性腰椎症が多く、膝関節穿刺で関節液を50cc吸引という患者を診るのは日常茶飯事です。林業が主産業の地域や、明治以来の開墾事業の地域は限界集落となっています。それでも京奈和道路や第2京阪道路を使えば京都市まで1時間で行けるようになりました。この恩恵にあずかっているのは、両親を残して京都市内にお住いの方が訪問するのに役立つぐらいです。
年間70人が亡くなられ、20人が出生され、転入、転出で100人減が最近の人口動態です。BCGの集団予防接種は2カ月ごとに1回、4人以下が多いです。診療所は国保診療所を入れて3軒あります。車で20分ぐらいで京都山城総合医療センターがあり、病診連携をしています。次回よりこのような地域で試行錯誤しながらやっている、地域包括や認知症カフェや看取りの話、特養での出来事を報告します。