医師が選んだ医事紛争事例(33)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(33)

賠償金を支払う・支払わない賠償責任の判断の難しさ

(50歳代前半男性)

〈事故の概要と経過〉

 バイクに乗っていて交通事故に遭遇し、救急外来で受診した。外科医師が診察を行い、レントゲンを撮って両手、左第3指、両膝打撲と診断した。ところが、痛みが取れないため、半月後に再来院して脳外科医師の診断を受けた。その結果、整形外科専門医を受診するように勧められ、患者は別の医療機関を受診し、「左第2、3、4指末節骨骨折、左第3指伸筋腱断裂」と診断され手術を受けた。患者はその医療機関で、交通事故直後に適正な処置がされていれば、左第3指が曲がったままにはならなかっただろうとの意見を言われたとのことだった。

 患者は医療機関側に過誤が認められるならば、相当額の賠償をしてほしいと要求してきた。

 医療機関側としては初診時に「何かあれば再診するように」と説明を行っているが、具体的な日時を指定しなかったことは不十分であったとして反省した。また、当該医療機関の整形外科医師によると、フィルムから骨折は確認できるとのことだったので、骨折の見落としも事実と認識した。ただし腱断裂に関しては特別な処置は施さないのが通常との認識を持っていた。

 紛争発生から解決まで約3年10カ月間要した。

〈問題点〉

 仮に医療過誤が部分的にでも認められたとしても、勤務も通常通りで休業損害も認められなかった。更に、左第3指が曲がったままであることも、交通事故に起因するものであり、患者の受けた医療とは関係がないと判断された。したがって過誤と損害との因果関係があるか疑問が呈された。上述したように、仮に医療過誤が認められたとしても、その損害がなければ賠償責任までは負う義務が基本的にはなくなるので、患者側にその旨を十分に説明して、理解を求める努力が医療機関側に必要となるだろう。ただし、患者側が医療費や休業損害等、いわゆる実損部分については要求せず、精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求してきたときは、問題が複雑になることもある。

〈顛末〉

 医療機関は賠償責任がないことを患者側に伝えたところ、患者の要求が途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。

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