環境問題を考える(128)
ライチョウから見た日本の環境の危機
私は保団連公害環境対策部員として、長良川、吉野川、諫早湾など様々な利権に絡んで行われる政府の公共事業が、貴重な日本の自然を破壊してきている状況を見てきた。実際そこで行われている環境破壊はその場所に行き、自らの目で見れば明らかにその理不尽さを呈している。ところが、私たちの普段目にしないところで、刻々と進む自然破壊にはなかなか気付く機会がないのが現状だ。
趣味として登山を始めて約6年。はじめはその雄大な美しい景色と普段目にすることはできない植物に、ただただ目を奪われるだけであった。そして、時々登山道のハイマツの中から姿を現すライチョウ、特別天然記念物と言われながら全く人を恐れず、時には手の届きそうな場所で、えさをついばむ親子の姿を目撃しているうちに、この生き物について興味を抱くようになった。
そこで、10月24日から静岡で行われた「第16回ライチョウ会議」に参加。1日目の市民向け公開シンポジウムではライチョウについて基本的な知識をわかりやすく説明され、またライチョウがこのままでは確実に絶滅の危機にあることを痛感した。ライチョウは北半球の寒冷地帯に広く生息している鳥である。その中で、日本のライチョウは世界で最も南の地域に生息し、静岡県にある南アルプスの光岳(テカリダケ)が、生息域では最南端である。また日本のライチョウは、人を恐れないという海外のライチョウ集団では見られない特徴を持っている。その理由は古来の農業国日本ではその貴重な水を生み出す山の水源には神が宿るとされ、その場所に生息するライチョウは神の鳥として畏敬の念をもって扱われてきたためである。ところが、1980年代にその個体数が3000羽という調査がされて以来、2000年代に入り個体数が1800羽を下回り、特に北アルプスと南アルプスでの個体数の減少が顕著であるということがわかっている。
日本のライチョウはヒナの死亡率が外国のライチョウに比べ非常に高い。ヒナの孵化する7月の気象条件が梅雨の終わりに当たり過酷なことや、捕食者が本来のオコジョやイヌワシ、クマタカに加え最近になってキツネやテンなども生息するようになってきたことがあげられる。
その上、ニホンザルによるライチョウのヒナの捕食が2015年8月に東天井岳で確認された。このような捕食者が増えることは、外敵にたいして警戒心や防御能力の乏しいライチョウにとって、危機的事態である。そのため現在、ライチョウを絶滅の危機から救うため様々な取り組みが行われている。北アルプスの乗鞍岳や南アルプスの北岳ではライチョウの親子を天敵や悪天候から守るために、ヒナが一番命を落としやすい生後1カ月の間、ケージで保護する活動が行われている。また研究者の手で卵を採集し動物園などで人工的にふ化させる研究も行われているが、まだ途上だ。
ライチョウの存在は都会で暮らす私たちにとって日常の中では決して身近な存在とは言えない。しかし、私たち日本人の魂の源は工業製品や巨大な建造物ではなく、豊かな海、山、川にあるのではないか。その豊かな日本の自然の象徴としてのライチョウがトキのように自然種消滅の危機に陥っていることは決して看過してはいけない問題である。
自ら造り出した原発で地球環境に取り返しのつかないダメージを与えるばかりでなく、リニア新幹線のトンネル工事でも手つかずの自然の残る、貴重な南アルプスを破壊しようとしているこの国家には、明るい未来が待っているとはとても思えない。GDPや人口が減少しても、国民が健康で平和に暮らせる国を私たちの子どもたちには残してやりたいと思う。
(京都府歯科保険医協会 理事 平田高士)