外科診療内容向上会レポート  PDF

外科診療内容向上会レポート

手術イラストなどの意義

サイエンスイラストレーションの世界を紹介

 京都外科医会の外科診療内容向上会が、京都外科医会、京都府保険医協会の共催で11月14日に開催されました。株式会社LAIMAN(レーマン)の菅徳子代表が「サイエンスイラストレーション業界の歴史と今後の動向」について講演されましたので、演題要旨を報告させていただきます。

 菅さんは2006年に獣医師免許を取得され、その後神戸ポートアイランドの医療関係の会社で勤務された後、東京デジタルハリウッドに入学され、2010年からは獣医師としてのメリットを生かされ、メディカルイラストレーターとして活動されています。仕事の内容としては、人間の医療に関しては腹腔鏡手術の術式、あるいは論文に用いられるシェーマなどを手掛けておられ、手術イラストなどで有名なレオン佐久間さんのお弟子さんに当たる方です。

サイエンスイラストレーション(SI)とは何か?

 SIとは科学的知識を記録、表現、伝達する説明図のことで、人間が意図をもってデザインし描き出したもののことです。歴史的には印刷物の図がほとんどですが、現代では動画や3DCGを含む多様なメディアの絵が含まれており教育や出版、マスメディアでも広く使われています。

SIがなぜ必要なのか、何のためにあるのか?

 イラストレーションの役割は好奇心を引き出して「見たい」と思わせること、言葉だけではわかりにくい説明の理解を促すこと、また視覚的な情報により長期的に記憶に残るようにすることが挙げられます。それなら写真で良いのではと思われますが、イラストレーションの特徴として「不必要な情報を省略できる」ことがポイントとして挙げられます。教科書や論文に手術野の写真を載せるよりも血液や余計な膜、組織を排除してイラスト化したものを載せるほうがはるかに見やすく理解が深まります。それに色をつけ重要な情報をより強調できることもイラストレーションの強みとなります。

日本のサイエンスイラストレーターの歴史および現状

 江戸時代は博物画として発展し、明治〜戦前になると近代生物学の導入により論文や図譜で多くのSIが必要となりました。そして戦後には学習図鑑のブーム到来によりカラー印刷技術が向上し、低コスト化したことで出版業界は大量のSIが誕生。しかし、現代になると、図鑑はイラストの代わりに写真を多用するようになり、さらには出版業界の低迷・縮小により、戦後イラストレーター世代がたくさんいるため描き手は飽和状態にあり、出版イラストレーターにとっては苦しい時代にあるとのことでした。

SI界の発展を

 イラストレーターは、ただ言われた通りに描くだけではなく、科学的知識を自分で勉強しあるいは科学者から指導を受けて身につけ、目的に合わせた効果的なデザインを作成しなければいけないとされています。しかし大学などでSI制作の専門的な教育を受けたプロフェッショナルな科学・医療専門のイラストレーターは世界でも2000人程度で、日本ではいくらか存在しているものの、人数などに関しては不明とのことです。現在日本では、唯一川崎医療福祉大学の医療福祉デザイン学科(レオン佐久間特任教授)にメディカルイラストレーター養成課程があるそうです。今後は日本全国に一カ所でも多くのイラストレーターの養育施設を設置し日本のSI界が発展していくよう望みたいと思います。

(亀岡・竹中 ★温★)

★「温」→旧字体「日」の中が「人」

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