社保研講演要旨 子宮頸がんはHPVワクチンで予防  PDF

第678回社会保険研究会
講師:京都産婦人科医会理事、医療法人IDAクリニック院長 井田 憲蔵 氏

 協会は9月20日、「HPVワクチン問題〜積極的勧奨差し控え、その終了の経緯と、接種の意義」をテーマに社会保険研究会を協会会議室で開催した。講師は京都産婦人科医会理事、医療法人IDAクリニック院長の井田憲蔵氏。会場とウェブで23人が参加した。
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 子宮頸がんは最初期病変のTA1期(間質浸潤3mm以下)であっても基本的に手術は免れない。とはいえ、TA1期は肉眼可能ではなく、細胞診でひっかかった方に対し、経腟的に子宮頸部を染色した上で、拡大鏡で見て初めて見えるレベルだ。
 高度前がん病変やごく初期のがんの場合、子宮頸部円錐切除術を行う。子宮頸管の狭小化、子宮頸管粘液分泌不全、子宮頸管の短縮により、月経困難(月経痛)、不妊、切迫流早産のリスクが上昇、妊娠に対するハンデとなる。
 さらに進行したがんの場合、広汎子宮全摘出術を行う。後遺症としてリンパ浮腫、排尿障害が起こる。妊孕性確保のため広汎子宮頸部摘出術により子宮体部を残す場合もあるが、妊娠予後は決して良いものではない。
 子宮頸がん検診を受けたことがなく、変な出血があると受診して子宮頸がんだった方のほとんどは経験的にV期以上であった。初診時V期の5年生存率は5〜7割程度だが、患者は20〜40代の若い女性であり、その方々が半分の確率で亡くなるのは残酷だ。
 末期には、腰部以下の著明な浮腫、それによる激烈な痛み、原発腫瘍からの大量出血、転移巣の臓器機能不全、肺転移巣増大による呼吸不全という悲惨な最期を迎える。若すぎる死、患者の枕元には両親と幼い子どもが残されるという場面を何度も見てきた。
 子宮頸がんはなってはいけない病気である。しかし、防ぐ手立てがある。
 それがHPVワクチンだ。
 早くから定期接種が男女ともに開始されているオーストラリアでは、前がん病変と診断される人数が明らかに減少している。一方、ワクチン接種率が非常に低い日本では、少しずつ子宮頸がんによる犠牲者が増加している。毎年約3000人が亡くなっている。
 HPVワクチン接種について、心配されるのが副反応であろう。日本で定期接種が始まった直後に報道された全身のけいれん、痛みの発作だが、現在は機能性身体症状(心身の反応)だったことが確認されている。対象は思春期の女子である。接種量は1回0・5?で痛みが翌日まで残り、ストレスとなる。そのため、被接種者への十分な説明と同意の上で、安心して接種してもらうことが大事だ。
 被接種者が副反応と思われる症状で受診した際は、共感的、支持的な態度で傾聴してもらいたい。診断に迷う場合、バックアップ医療機関である京都府立医科大学附属病院の産婦人科、緩和ケア科につないでもらいたい。
 HPVワクチン定期接種の対象者は小学6年から高校1年の女子。定期接種完遂には半年を要するため、高校1年の9月には開始する必要がある。DT二種混合(11歳〜13歳未満が接種期間)接種時に予約してもらうなど、他の予防接種と時期を開けずに接種してほしい。
 過去に接種できなかった女性を対象とした「キャッチアップ接種」は2025年3月31日で終了したが、22年4月1日〜25年3月31日の間に1回以上接種した人は26年3月31日まで残りの接種を公費で完了できる経過措置がある。キャッチアップ世代、28歳以下の女性が受診したら接種が終わっているか尋ねてほしい。
 HPVワクチンで感染を100%防げるわけではないため、20歳を過ぎたら2年に1度はがん検診を受けてほしい。
 HPVワクチン完遂率90%を目指し、子宮頸がん撲滅に向けて、お力を貸していただきたい。

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