対抗軸を探る 15 都留文科大学名誉教授 後藤 道夫  PDF

低所得単身世帯の増加と「医科診療代」格差
日本型雇用タイプの世帯形成の縮減

 未婚の数と割合は1970年代から長期に上がり続けているが、2020年の「国勢調査」で見ると、40 歳代前半以下の世代では男女ともにその勢いは緩んできたようだ。
 経済的条件に限れば、男性の未婚率は所得に対してきれいな右下がりを描き、近年はその程度がさらに激しくなっているが、形は変わらない。他方、女性の未婚率/所得カーブは従来、男性と逆に右上がりで、高所得、高学歴の未婚率は高いとされてきたが、近年は特に40歳代前半以下で大きく様変わりし、無業・下位低所得での未婚率が上がるとともに、200万円付近より高い収入では平坦あるいは右下がりのカーブを描くようになった。
 細かい話は別稿に譲るが、要は、男女ともに低所得が未婚要因という側面が日増しに大きくなり、強固な性別役割分業と癒着した日本型雇用タイプの世帯形成が急速に縮んでいるということだ。
 未婚の大幅増および高齢化による離死別の増加によって、単身世帯はこの15年間で478万世帯(27・4%)増え、〈夫婦と子〉世帯の2倍以上になった。単身世帯増加分のうち、未婚の増加分が52%、離死別増加分は37%と、未婚増の影響は大きい(就業構造基本調査07年と22年)。なお、未婚増による単身増は低所得単身世帯を増加させるだろう。未婚における低所得要因が男女ともに上昇しているためである。
 図1は02年と22年の低所得単身世帯数を年齢別に見たもので、特に65歳以上で、100万円未満、200万円未満の単身世帯が大きく増加したことが分かる。年齢計で100万円未満を数えると、2002年が328万世帯(単身世帯の21%)、2022年では430万世帯(単身世帯の19%)である。低所得単身世帯の数は、今後さらに大きくなる可能性が高い。
 医療費について、低所得単身世帯がどの程度その支出を抑制しているか、「全国家計構造調査」の「健康保健」の諸項目の数値を眺めておきたい。
 表にまとめたが、医薬品、医科診療代、歯科診療代ともに、低所得単身世帯の支出額は平均値よりも相当に少ない。高齢者が多い単身無職世帯は、150万円未満が3割と高率だが、平均との乖離はさらに大きい。
 65歳以上をはっきりと区切った単身の集計では、医科診療代等の細目がないが、上位項目である健康保健サービスの数値は分かる。2019年は2004年よりも収入階層による格差が広がっている(図2)。全国家計構造調査には都道府県ごとの集計もあるが、サンプル数が少ないようで、数値の安定性に欠ける。それでも医科診療代等についての収入格差が激しい地域の存在は示唆されている。医科、歯科ともに人々の「必要が充足」されて当然であり、それを目指して多くの人々の努力がつぎ込まれてきた領域である。気になるところだ。

表 全国家計構造調査 2019年 単身世帯と単身無職世帯 低所得世帯の「保健医療」支出

単身世帯
単身無職世帯
平均
100万円未満
100〜150万円未満
平均
100万円未満
100〜150万円未満
世帯数
1,808万世帯
113万世帯
151万世帯
642万世帯
89万世帯
103万世帯
65歳以上人員数平均
0.36人
0.55人
0.57人
0.81人
0.68人
0.75人
有業人員数平均
0.64人
0.22人
0.32人



世帯主の年齢平均
54歳
64.9歳
63.6歳
72.7歳
69.4歳
70.2歳
保健医療
6,992円
5,084円
5,561円
8,369円
5,145円
6,085円
医薬品
1,420円
1,100円
1,331円
1,707円
1,131円
1,439円
保健医療サービス
3,601円
2,514円
2,725円
4,179円
2,547円
2,853円
医科診療代
1,851円
1,614円
1,728円
2,183円
1,776円
1,763円
歯科診療代
636円
361円
416円
715円
224円
420円
他の入院料
187円
26円
177円
295円
7円
243円
整骨・鍼灸院治療代
198円
84円
75円
290円
99円
94円
マッサージ料金等
334円
42円
90円
183円
34円
118円
人間ドック等受診料
144円
129円
41円
147円
116円
38円
他の保健医療サービス
250円
258円
198円
366円
291円
177円
保健医療
100.0%
72.7%
79.5%
100.0%
61.5%
72.7%
医薬品
100.0%
77.5%
93.7%
100.0%
66.3%
84.3%
保健医療サービス
100.0%
69.8%
75.7%
100.0%
60.9%
68.3%
医科診療代
100.0%
87.2%
93.4%
100.0%
81.4%
80.8%
歯科診療代
100.0%
56.8%
65.4%
100.0%
31.3%
58.7%

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