京都市中京区東玉屋町にある薬祖神祠には、和漢洋の医薬の神々である大巳貴命〈おおあなむちのみこと〉、小彦名命〈すくなひこなのみこと〉、神農〈しんのう〉、そしてヒポクラテス(!)が祀られている。ここは「二条の神農さん」の愛称でも親しまれている。
さてこの「神農」であるが、4千〜5千年前の中国の伝説の皇帝で、人々に医薬と農耕を教えたとされている。
神農の身体は透明で、食べたものが消化される様子が外から観察できた。体に良いものは光を放ちながら消化管をくぐり、逆に体に悪いものは黒く変化したという。神農はあらゆる植物を口に入れて、何が薬で何が毒かを自分で判別した。その結果、植物は4万7千種の薬と、39万8千種の毒に分けられた。
神農は毒を口に入れた時には苦しみながらも、自分で解毒剤を飲んで治した。しかしついに解毒できない植物にあたり、最後は命を落としたという。その植物の名は「断腸草」。現代でも誤用による死亡例が報告されている。
その神農の名を冠した「神農本草経」という中国最古の薬学書がある。この本が編纂されたのが約2千年前とされているので、実際は神農が著したものではない。後世の誰かが神農の名にあやかりたいために名付けたと考えられている。だがこの「神農本草経」、365種類もの薬物が収載されているのだが、現代で十分通用する内容である。これは驚くべきことであり、西洋医学では考えられない。西洋医学では100年前の知見はすでに通用しないと言ってもいい。それだけ進歩が速いとも言えるのだが…。
漢方の大きな利点の一つに、長い期間の追試を経ているということがある。数千年の使用経験による淘汰を受けた薬には、それなりの安全性と有効性が保証されていると言っていい。
一方、西洋薬はどうか。次から次へと新薬が開発されることによって数多くの患者が救われていることは素晴らしい。が、その一方で一世を風靡した薬が、数十年後には全く使われなくなることは珍しくない。30年前にはあんなに頻用されていたダ○ゼン、ダン○ッチといった薬はずいぶん前に販売中止になってしまった。
さて、現在処方されている西洋薬で100年後まで残っている薬は何種類あるだろうか?