当院で受付・請求事務を手伝ってくれている次女が宇治市図書館から借用して、妻も読んで勧めてくれたので、さっそく読んだ。感動の一冊であった。最近、ジョー・ジョンストン監督作品の「ジュラシック・パークⅢ」(2001年、アメリカ)で、首長の草食恐竜はキリンのように長い首で、支えるのも動かすのも大変だろうなと見ていたが、頸椎は脊椎動物・哺乳類の7個どころか、恐竜や鳥類ではもっと多く40数個になるのもあるとのことである。
著者は幼小児期からキリンに親しみを持ち、東京大学入学後、シラバスで後期1~2年生用の全学自由研究ゼミナールに「博物館と遺体」を見つけ、指導教授がNHK「爆笑問題とニッポンの教養」に出演した遠藤秀樹氏であったことから、「キリンの解剖できますか?」と尋ねて応募した。各地の動物園でキリンに死が訪れると、献体の上、解剖場所の博物館に搬送してもらい、テーマとなった主に頸椎・頸部筋を解体・解剖することとなり、修士・博士課程へとも研究を継続することになった。今や「キリン学」の第一人者でもある。
医学部では教育課程で人体解剖実習があり、白菊会の篤志家から御献体いただき、脱血・ホルマリン注入・固定して保存し、学生実習には第2学年生が週3~4回午後半日、第1学期間をかけて行われる。私は今や整形外科・リハビリテーション科・小児科(妻担当)の無床診療所開業医であるが、かつて学生実習し、その後、母校の解剖学教室で大学院生あるいは修了後は教官として、分子生物学での研究の1世代前は免疫組織化学を用いて研究し、学生指導もした体験がある。また、この著者の研究では人間で言えばヴェザリウスの時代の解剖学研究のようにも感じられた。私もラットを用いて脊髄の研究をした時には人間の頸椎は棘突起が頭部支持に7番目の隆起で「隆椎」と命名されるが、4つ足動物では第2胸椎が「隆椎」化していると気付いて進化論上の面白さを感じたが、それを推進する訳にはいかなかった。
著者が出会い接したキリンたちへの思いは、かつて私がラット等に抱いたことがあまりないもので、本来そうあるべきだったんだなと思えて心打つものがある。著者の探究方向は指導教授のヒント提供から、キリン第一胸椎に生じた頸椎的な動きからそこに付着する筋を見つけようと実際に遺体解剖して、近種のオカピとの比較研究などを加え、CT画像での証明をも追加し、主動筋はないが、第7頸椎の半量は可動し、高所葉摂食から水平面飲水への最大屈曲に移るに際してさらに50 cm以上の可動域を獲得・維持して進化したものと、2016年2月に「キリンの8番目の“首の骨”」として、英国王立協会発行の科学論文誌に掲載された。本書では探究から解明へとワクワクする面白さがある。ぜひご購読下さい。
MENU