社会保障の圧縮、極右排外主義が気になる
原 昌平 (ジャーナリスト)
さて、参院選である。
物価高、コメ不足、消費減税か一律給付金か、与党が参院でも過半数を割るのかといったことが主な争点として報道されるが、筆者にとって気になることは2点ある。
社会保障の圧縮を主張する勢力と、極右排外主義の勢力が伸びるのかどうかである。
まず社会保障を見よう。
自民、公明、維新の3党は6月6日に開いた社会保障制度改革協議で、2027年4月の新地域医療構想スタートまでに、病院の病床11万床を削減する方針を決めた。
削減の内訳は、一般病床・療養病床で5万6000床、精神病床で5万3000床。これにより、医療費1兆円を削減できるとする。
市販薬に似た効能の商品がある医療用医薬品(OTC類似薬)の医療保険適用の見直しも検討していく。
内容を主導したのは維新のようだ。この党は、医療費4兆円の削減を図るとし、高齢者の医療費窓口負担の原則3割化、混合診療のさらなる解禁も打ち出している。
協議の枠組みには入っていないが、国民民主党も、OTC類似薬の保険外し、セルフメディケーションの推進を主張し、尊厳死の法制化などによる終末期医療の見直しまで公約に入れている。
以上の各党が共通して掲げる主な目的は、現役世代の社会保険料負担を減らすこと。
国民民主の「手取りを増やす」というスローガンが若い世代を中心にウケたことが背景にあるのだろう。
賃上げより、天引きされる税金と社会保険料を減らすことを強調するのは、現役世代の勤め人、とくに正規雇用者の支持を得るためのアピールと言える。それは企業経営の利害とも矛盾しない。
つまり、元気で安定した人たち向けの政策である。
この議論の立て方は、高齢者・病者を敵視して、世代間の分断・対立をあおることになる。高齢者や病者の負担を増やし、社会保障の給付を狭める政策につながる。
それで、安心できる社会保障になるのだろうか。
病床削減では、地方の医療提供や感染症危機対策に支障が出ないか懸念される。精神病床の削減には筆者は賛成だが、減らすべきは民間の単科精神科病院であり、総合病院の精神病床を減らすと適切な医療を確保できなくなる。
OTC類似薬の保険外しは患者の経済的負担を増やす。まして尊厳死の法制化を医療費削減と関連させて持ち出すのは、怖い。高齢者や病気の人はさっさと死ねと言うようなものではないか。
極右排外主義はどうか。
(欧米以外の)外国人を敵視したり見下したりする言説は、自民党内の極右にも、維新、国民民主にも見られる。
代表格は、日本人ファーストをうたう参政党。この党の新憲法案では、国民主権を否定して天皇が統治する。日本人の要件は、父または母が日本人で日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準にするという。
敵を作り上げ、生活上の不満の原因をそちらに求めさせようとする。分断と対立をあおるアジテーションが幅をきかせるとしたら、恐ろしい。