「全世代型社会保障」が行きついた世代間分断と対立
応能負担とベーシックサービス保障で乗り越える
昨年の衆議院選で石破政権が少数与党へと転落して以来、国民民主党と日本維新の会の存在感が増している。自民・公明の議席が過半数に達しない中、2025年度予算を成立させるための協議相手として選ばれたのが、この二つの政党だ。国民民主党と日本維新の会はこの間比較的に若い世代からの支持獲得を狙って、税と社会保障制度における世代間の不公平を批判し現役世代の負担軽減を求める主張を展開してきた。
例えば、日本維新の会は昨年の衆院選マニフェストで、「世代間不公平を打破する社会保障の抜本改革」を四大改革の一つに掲げ、「現役世代に不利な制度を徹底的に見直」すことを主張しており、今年2月に公表した「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」でも、高齢者を支えるために現役世代に課されている負担が少子化を深刻化させる要因であるとして、医療費を年間で最低4兆円削減し現役世代一人当たり社会保険料を6万円引き下げるとしている。
国民民主党についても、維新の会ほどには露骨ではないものの、昨年の衆院選期間中に、玉木代表が社会保険料の軽減のための方策として尊厳死の法制化も含めて終末期医療の見直しが必要と発言するなど、世代間の対立構図を利用することで現役世代からの支持を集めようとする意図が見え隠れしている。
ただ、強調しておかなければならないのは、こうした世代間の分断と対立をあおるような議論は実は国民民主や日本維新だけが展開しているものではなく、この間の社会保障改革論議の中で「全世代型社会保障」の名の下に展開されてきたものでもあるということだ。国民民主や日本維新はそうした議論の枠組みに乗っかり利用することで、税と社会保障の新自由主義化を押し進める役割を果たしている。
菅政権の下、2021年に設置された「全世代型社会保障構築会議」では、給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心となっているこれまでの社会保障を見直し、将来世代も含めた全世代を対象とする社会保障へと転換する必要が強調されているが、それに伴って、今後は社会保障の負担も全世代によって支えていかなければならないとして、特に高齢世代の負担を増加させていくことが主張されている。「全世代型社会保障」は当初はまがりなりにも子育て支援等の現役世代向けの社会保障の拡充を求める議論であったが、もはや世代間の公平性の確保という名の下に高齢世代に負担増加を求める議論に成り下がってしまったのだ。
しかも、そうした高齢世代の負担増加は、「すべての国民が、その能力に応じて負担し、支えあうこと」であるとして、応能負担に基づくものであるかのように主張されている。具体的には、すでに実施された「一定以上所得」のある後期高齢者の窓口負担2割への引き上げの他、介護保険の利用者負担が2割となる対象者(「一定以上所得」)の範囲の拡大、医療・介護保険の3割負担となる対象者(「現役並み所得」)の拡大が検討事項として挙げられており、また医療・介護保険の負担のあり方に金融所得や金融資産の保有状況を反映させることが検討されている。
しかし、「全世代型社会保障」の名の下に進められようとしているこうした負担増は、本来の応能負担とはまったくの別物である。医療や介護等の社会サービスの提供に対して一部料金の支払いが求められる利用者負担のあり方は、そもそもそれ自体が応益負担の仕組みであり、そこに応能負担的な考え方を部分的に取り入れたとしても、そこで出来上がるのは歪んだ応益負担の仕組みでしかない。利用者負担の増加の対象となる高齢者にとっては、それは応益負担の強化に他ならず、受診・利用の抑制につながりかねないのである。
「全世代型社会保障」にあらわれているような世代間の分断と対立をあおるかのような議論は、現在の日本において税と社会保障の新自由主義化を押し進めるテコとしての役割を果たしている。あたかも高齢世代が優遇されているかのように主張することで、高齢世代に対する給付の削減や負担の増加を正当化することになるからだ。
世代間の分断と対立の構図を乗り越えていくためには、第一に、社会保障財源の確保の方策を本来あるべき応能負担に基づいて構想していくことが必要である。例えば、所得税の累進制の強化や金融所得・資産への課税強化、法人税等の企業負担の増加など、社会全体で応能的に社会保障を支える財源調達の仕組みを考えていくことである。
そして第二に、社会生活を送る上で必要不可欠な社会サービス(=ベーシック・サービス)を無料あるいは低額で人々に提供し、権利として保障するような包括的な社会保障を実現していくことである。これは、イギリスなどでは「普遍的ベーシックサービス保障」として議論されていることであるが、人それぞれが抱えている生活上の必要性に応じて必要なだけの社会サービスが現物給付として保障されるべきという原則をあらためて確認する必要があるだろう。社会生活を送る上で誰もが必要とするベーシック・サービスを普遍的な権利として保障することこそが、世代を超えた社会的連帯を構築する社会保障に向かう道である。