政策解説 厚労省「総合改革意見」をどう読むか 4 「医療DX」と「支払基金改革」  PDF

本連載掲載中の2月14日、国は「総合改革意見」の内容をそのまま反映した「医療法等の一部を改正する法律案」を一括法案として国会に提出した。本紙編集部は現時点では、ここまでの連載と改正法案内容に大きな齟齬はないものと判断している。ただし本号の掲載内容は「意見」の段階では(案)とされていた事項や不明であった事項につき、可能な範囲で法案に即して修正している。また現在、引き続き法案内容の分析を進めており明らかになった事実は引き続き、本紙や協会ホームページにて情報提供する。ご留意いただきたい。
 社会保障審議会医療部会の「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」(2024年12月25日)における「医療DXの推進について」の柱は四つである。
@電子カルテ情報共有サービス
 医療機関・薬局等での電子的な情報共有を行うため、「医療機関等が電子カルテ情報(3文書6情報1))を社会保険診療報酬支払基金等に対して電子的に提供できる旨を法律に位置付け、2025年度中に本格稼働を目指す。法に位置付けることにより個人情報保護法による「第三者提供に係る本人同意取得の例外」とし、患者の同意取得2)を不要とする(他の医療機関が閲覧する際には同意が必要)。
 共有サービスの速やかな普及推進のため、医療機関管理者には体制整備の努力義務を課す。医療機関は電子カルテシステムの標準化対応の改修、「標準型電子カルテ等の導入」を進める。
 国は共有サービスに係るシステム・データベース等の開発・改修費用や医療機関の電子カルテシステムの標準化対応の財政補助等、サービスの立ち上げに要する費用を負担する。一方、「サービス全体に要する費用」は患者(被保険者)・医療機関・保険者・国が「一定程度負担」する。
Aマイナンバーカードを活用した医療費助成の効率化(公費負担医療・地方単独医療費助成のオンライン資格確認)
 マイナ保険証1枚で医療費助成のオンライン資格確認を実施できるようにする。すでに2023〜24年度に183自治体が先行実施事業に参加しているが、2026年度以降に制度化すべく法整備する。体制構築以後の関連システムの管理・運用等の業務に要する費用は自治体等が負担する方向で調整する。
B医療等情報の二次利活用の推進
 @の電子カルテ情報について「匿名化・仮名化情報3)」の利活用を可能とする。さらに厚生労働省が保有する医療・介護関係でのデータベース(=公的DB)について「仮名化情報」の利活用を可能とし、他の公的DBの仮名化情報や次世代医療基盤法に基づく認定作成事業者のDBの仮名加工医療情報との連結解析を可能とする。
 さらにDBに研究者・企業等がリモートアクセスし利用・解析を行えるようクラウドの情報連携基盤を構築する。
C社会保険診療報酬支払基金の抜本改組
 社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)を審査支払機能に加え「医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体」へと抜本的に改組する。名称を「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」に変更し、法人の目的・業務に医療DXに関する基盤の整備・運営を位置付ける。
 組織体制を大きく変更。理事会廃止、新たな意思決定機関として「運営会議」を設置し学識経験者・被保険者(地域保険の立場を代表する者も加える)・地域行政・保険者・診療担当者で構成。審査支業務について「審査支払運営員会」を設ける。
 現在の常駐役員(理事長・理事)の中に「情報通信技術に関する高度かつ専門的な知識を有する理事(CIO4))」を加える。

何が起ころうとしているか
 国は健康保険証の法文からの抹消という強権手法で大多数の国民に個人番号カードを持たせ、2024年12月2日の保険証の新規発行停止へ漕ぎつけた。「総合改革意見」は次に国の目指す医療DXのステップを示したものである。
 医療DXは「より良質な医療やケアを受けられるように」するための改革だと厚生労働省は語っている。しかし実際に推進されようとしているのは「公益のため」と言って、人権を守る「ルール」もないままの国民等の医療・健康情報の収奪である。
 国は医療機関・介護事業所・自治体の保有する個人データを集積する「全国医療情報プラットフォーム」構築を目指している(図1)。「電子カルテ情報共有サービス」はその一環である。プラットフォームではオンライン資格確認を通じた情報(審査支払機関の保有データ等)に加え、「電子処方箋」による薬剤処方情報も集積され、介護分野でもレセプト、要介護認定、LIFE、ケアプラン等の共有が想定されている。
 そうした情報が同意に基づき患者自身のためにのみ利用される(一次利用)のはまだしも「二次利用」については無条件に賛成することはできない。
 Bにあるように集積した情報は「製薬企業」や「健康産業」等に提供、活用させることが想定される。この場合の患者同意は不要で良いのか。医学・医療のためのデータ活用を全否定してはならないが、利活用のハードルをなし崩しに下げようとする国の姿勢は看過できない。協会が「『医療DX』について考える提言」(2024年2月25日)で指摘したように「医療情報は患者のもの」であり、人権としての「自己情報コントロール権保障の法制化」がまず必要である。
 またプラットフォームは国の管理するシステムであり、国家側が全国民の医療・健康情報を閲覧できる仕組みとなる危険性がある。「公益のため」といって個人情報が政策目的で活用される危険性が否定できない。そうしたことから「意見」にある「今後、透析情報や蘇生処置に関する情報、看護や歯科に関する情報等を共有対象に追加することについて、医療関係者の意見を聴きながら速やかに検討を進めるべきである」との記述に対しても危惧を抱かざるを得ないのである。

支払基金の国策利用には論理的理由が存在しない

 支払基金は1948年に制定された「社会保険診療報酬支払基金法」に基づき「診療報酬の審査・支払を統一的かつ迅速に行う機関」として設立された。当時、診療報酬の支払いは「早くて数カ月、遅いものは1年以上も遅延し、保険診療が医師に敬遠される大きな原因の一つであった5)」。支払基金の誕生は戦後の「健康保険の再建とその後の発展にきわめて重要な役割を果たした」のである。支払基金は保険医療機関、患者の医療保障双方にとって大切な存在である。
 支払基金の改組について、国の「医療DXの推進に関する工程表」(図2)は「社会保険診療報酬支払基金が行っているレセプトの収集・分析や、オンライン資格確認等システムの基盤の開発等の経験やノウハウを生かす観点から、同基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する」(5医療DXの実施主体)と述べるのみで、なぜ支払基金なのかを説明できていない。本来の役割から考えて、医療DXという国策に利用するために組織の性格を丸ごと作り変えてしまうことの論理的な理由は見当たらないのである。

1)3文書:健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー、6情報:傷病名、感染症、薬剤アレルギー等、その他アレルギー等、検査、処方
2)個人情報保護法第27条 は、(第三者提供の制限)「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」と定める一方、「法令に基づく場合」等の例外規定を設けている。
3)【仮名加工】他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工された情報。原則として個人情報として取り扱う。【匿名加工】特定の個人を識別できないように加工され、かつ個人情報を復元できないように加工された情報。個人情報として取り扱われない。
4)Chief Information Officer=情報統括員
5)2005年『日本医療保険制度史【増補改訂版】』(吉原健二・和田勝著、東洋経済)125ページ

図1 全国医療情報プラットフォーム(将来像)

○オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療機関等が発生源となる医療情報(介護含む)について、クラウド間連携を実現し、自治体や介護事業者等間を含め、必要なときに必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームとする。
○これにより、マイナンバーカードで受診した患者は本人同意の下、これらの情報を医師や薬剤師と共有することができ、より良い医療につながるとともに、国民自らの予防・健康づくりを促進できる。さらに、次の感染症危機において必要な情報を迅速かつ確実に取得できる仕組みとしての活用も見込まれる。

※第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料(2022年9月22日)

図2 医療DXの推進に関する工程表(全体像)

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