「大空は 梅のにほひに かすみつつ くもりもはてぬ 春の夜の月」(藤原定家、1198年)。草々が芽吹き始める初春のこの頃。柔らかな日差しの中、北野天満宮を歩けば、ほのかな梅の香りに包まれる。この歌が詠まれて千年経っても梅の香りは変わらない。しばしの間、定家が伝えようとした優艶な香りの世界に思いを馳せたのち、境内から一歩外へ出れば、そこはデジタル化が進んだ現代社会である▼サンフランシスコではグーグルやゼネラルモーターズなどが開発した自動運転タクシーが一般の人も利用できる形で運行されている。完全無人運転で運転手が乗らず、AIが運転を制御し、24時間昼夜を問わず、誰でもスマートフォンアプリで呼び出すことができる。今後、このシステムは我が国にも普及していくことだろう▼昨今の医療技術もITの進歩に負うところが大きい。中でもAIは画像診断、新薬開発、遠隔医療などにおいて、なくてはならない存在となっている。今後の医療はAIをいかに有効活用するかにかかっていると言っても過言でない▼AIが進化すれば、人々の暮らしは便利になるだろう。しかしそれで人々が幸せになるのかは別問題である。幸せは人それぞれ。いかに世の中が変化しようと、毎年春になれば梅は咲く。そしてその香りは確実に人々を幸福にしてくれるのである。(clear)
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