鈍考急考 59  PDF

原 昌平 (ジャーナリスト)
精神科病院のベッドを減らそう

 多すぎる精神科の入院ベッドを減らす。長年の課題が本格的に動き出しそうだ。
 精神病床は昨年10月時点で31万6087床(医療施設調査)、在院患者は25万8502人(病院報告)。
 人口あたりの精神病床数はOECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均の約4倍と飛び抜けて多い。しかも強制入院が多く、入院期間も長い。
 日本の精神病床と在院患者数は1950年代から80年代まで増え続けた。国が隔離収容政策を取り、助成や低利融資までやって民間精神病院を増やしたからで、そこでは人権問題・不祥事が多発した。
 80年代末に地域医療計画で新設・増床が規制され、90年代から病床数、在院患者数とも減ってきたが、ペースはゆっくりだった。
 しかし最近、重要な変化が起きている。2020年以降、在院患者数の減少幅が大きく、23年3月には病床利用率が全国平均で80%まで低下した。休床を除いた保険届出病床数を分母にしても70%台の県がある。80%を下回ると採算割れが必至だろう。
 精神科病院の経営は、ホテルやマンションの経営と似ている。収入の大部分は入院料。空床があると埋めたくなる。それでは地域移行を進めてもベッドの回転が速まるだけ。入院中心の医療を変えるにはベッドの削減が欠かせない。
 精神科病院の経営は、昔は強制収容型が多く、しだいに長期入院型が増えた。2000年代から機能分化政策で救急・急性期型も増えた。
 けれども、統合失調症は入院の必要なケースが減り、認知症も有料老人ホームなどが増えて受け皿になっている。10年以上の超長期入院患者は死亡退院も多く、かなり減った。救急・急性期にも大きなニーズはない。
 従来型の経営では、もはや立ち行かない。ベッドは今の半分でも足りるだろう。
 民間病院でつくる日本精神科病院協会は、従来型の経営に固執する印象があったが、ここに来て、方針転換した。
 山崎學会長は9月の常務理事会で「地域医療総合確保基金を使って病床の買い取りができるので、活用してダウンサイジングできる仕組みを検討しなければ」と述べた。
 今年1月の新春あいさつでは「精神科病床の削減改革に着手する必要に迫られています」と踏み込んだ。
 厚労省の検討チームは12月、地域医療構想に精神病床を含めることを了承。国の補正予算では、医療需要の変化に応じた病床削減に1床あたり410万円の補助金を出すとし、精神病床も対象にした。
 病床を減らすのに最も効果的な方法は経済誘導で、うまくやれば軟着陸できる。
 問題は、どんな医療をめざすか。削減した病棟のスタッフの半数を残った病棟に回せば、配置密度が上がり、高いランクの入院料を得られる。強制や管理ではなく、手厚く快適な医療を提供しよう。
 残りのスタッフは外来、訪問診療、訪問看護、障害福祉などへ移せば、病院の総収入は減らず、職員を解雇する必要もない。地域生活を支える医療・福祉の報酬を高めたい。
 そういう方向で、国の本気の政策が必要な時が来た。

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