「総合改革意見」の柱
2024年12月18日、厚生労働省の社会保障審議会医療部会が「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見(案)」1)(以下「総合改革意見」)を公表した(図1)。
「総合改革意見」は医療提供体制改革に関するこれまでの審議を踏まえ、厚生労働省に対し「医療法等の改正を行う」よう求めている。
その情勢認識は全地域で人口減少となる一方、85歳以上人口は2040年にピークを迎える。これにより高齢者の救急搬送・在宅医療の需要が増える。にもかかわらず生産年齢人口は減少し医療従事者確保も困難になる。医師については人口減少の中での医師養成の在り方、医師偏在が課題となっている他、診療所医師は高齢化、診療所数は人口の少ない地域で減少、多い地域で増加している。よって、新たな地域医療構想策定、医師偏在是正の総合的推進、医療DXを着実に推進することで「より質の高い医療やケアを効率的に提供する」というものである。
その上で、具体的な法改正内容の方向性として@新たな地域医療構想A医師偏在対策B医療DXの推進C美容医療の適切な実施Dオンライン診療Eその他―が記述されている。
このうち@地域医療構想とA医師偏在対策については「別添のとおり」とだけ書かれている。別添とは2024年12月18日に厚生労働省医政局の新たな地域医療構想に関する検討会が公表した2本の文書「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」と「医師偏在対策に関するとりまとめ」である。
本稿では「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」に対する批判的分析を試みる。
新たな地域医療構想の概要
新たな地域医療構想の年限は2040年と設定される。目指すべき方向性として@増加する高齢者救急への対応A在宅医療需要への対応B医療の質や医療従事者の確保C地域における必要な医療提供の維持―が示されている。
まず注目したいのは「医療機関機能」報告である。現在の地域医療構想は病院・有床診療所に「病床機能報告」を義務付けている2)が、今度は病院機能そのものを「選択」させる。具体的な報告項目と方法は2025年度にも国が作成する「ガイドライン」での検討となるが〈医療機関機能の名称と定義〉として@高齢者救急・地域急性期機能A在宅医療等連携機能B急性期拠点機能C専門等機能D医育および広域診療機能―が示されている。
さらに新たな構想は入院医療のみならず、外来医療・在宅医療、介護連携等も対象とすることで、診療所を中心とした外来医療機関の機能分化を目指すものとなる。一方で「かかりつけ医機能報告」も同時期にスタートし、事実上の「必要診療所数」が目標化される可能性がある。3)
また以上のように新たな地域医療構想が「医療提供体制全体を対象として、地域の医療提供体制全体の将来のビジョン・方向性、医療機関機能に着目した医療機関の機能分化・連携、病床の機能分化・連携等に関する事項を定めるもの」となることから、これまでの「医療計画の一部」と位置付けを逆転させ「医療計画の上位概念」とする。
その上で、今後の作業スケジュールとして、2025年度に国がガイドラインを作成、2026年度に都道府県が医療機関からの報告データを踏まえながら、地域の医療提供体制全体の方向性、必要病床数の推計等を検討・策定、2027年度〜28年度に「医療機関機能」に着目した地域の医療機関の連携・再編・集約化の協議等、現行の地域医療構想は2026年度も継続し、新たな地域医療構想は2027年度から順次取組を開始し「円滑な移行」を図る(図2)。
新たな地域医療構想への懸念
徐々に明らかにされてきた新たな地域医療構想にはいくつか懸念がある。
とりわけ「高齢者救急・地域急性期機能」と「急性期拠点機能」についてである。
まず指摘したいのは「高齢者救急」という用語の学術的定義の有無である。検討会の議事録を読むと「高齢者救急」なる用語が飛び交っている。しかし定義についての言及はない。一方の「地域急性期」についても、大阪府や京都府が現在の地域医療構想における「急性期」と「回復期」の「定量的基準」を検討する議論に関連して「地域急性期」なる概念を持ち出し、それを回復期と見なす試みをした経緯があるが、定義が明確であるとは言えない。つまり国は「高齢者救急」の用語を高齢者による救急受診というふんわりした意味合いで用いているに過ぎない。
もちろん高齢期の特性から「受入体制の強化」や「ADLの低下を防止するための早期からのリハ」、早期の自宅復帰への支援体制確保は必要であり、その限りにおいては必ずしも「高齢者救急」を否定するものではない。だがこれまでの国の政策の経緯から、そして何よりも今日の政権が「高齢者救急」を論じていることに不信を抱かずにはおれない。
2024年度診療報酬改定における7対1病棟の看護必要度におけるB項目(患者の状態・介助の実施など)廃止は、「急性期」から介助に手間のかかる患者を排除するものであった。排除されるのは高齢者や障害のある人たちに他ならないことは、本当は現場従事者が誰よりも理解しているはずである。国の目指す方向が「急性期」医療を担う医療機関は急性期の役割に徹することを目指すものであるならば、B項目廃止は高齢者や障害のある人への医療は急性期の対象ではないと宣言したも同然である。確かに一方で今次改定は「高齢者救急」を意識した「地域包括医療病棟入院料」が新設され期待もある。本当に高齢や障害の特性に応じた医療サービスの提供を保障し得るのではあれば歓迎すべきである。しかし今回の「医療機関機能」に示された「急性期拠点機能」に国は次のような説明を付している。「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う」。つまり急性期を担う病院は集約化する。地域には「高齢者救急」を担う病院を配置する。これが2040年に目指される地域の入院医療提供体制の絵である。
外来・在宅医療の需要推計からの「数値目標」化はどうなるか
外来・在宅医療について、とりまとめは「地域ごとに現状や将来の医療需要推計、提供体制の将来見込み等を踏まえ、将来の外来医療・在宅医療提供体制のあるべき姿を議論することが重要」「新たな地域医療構想においては、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護連携等も対象とすることが適当」として地域の「医療関係者、介護関係者、保険者、都道府県、市町村等の関係者の協議」の場で「かかりつけ医機能報告や外来機能報告等のデータを基に、地域の現在や将来の医療需要と資源の状況を踏まえつつ、地域の外来・在宅・介護連携等に関する状況や将来の見込みを整理して課題を共有する」と述べる。この書き振りからは外来・在宅についてどのような数値目標を設定するか、あるいはそもそも数値目標化しないのか判然としない。あえて微妙な表現が採られているのではないかという印象である。診療所数のコントロール、「適正配置」を目指す動きは多方面から追求されており、何かしらの形で自由開業規制が狙われるのは確実であろう。この点については「新たな地域医療構想に関する検討会」のとりまとめたもう一つの文書「医師偏在是正に関するとりまとめ」を読むことを通じてさらに検討を深めたい。(続く)
図1 「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見(案)」より
図2 「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」より
1) 第114回社会保障審議会医療部会 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47469.html
2) 2022年からは「紹介受診重点医療機関」の明確化等を目的に「外来機能報告」も義務付けられている。
3) 本紙第3173号「新たな地域医療構想と『かかりつけ医機能報告制度』が結びつく先」に既報。