救急現場の早期医療介入に車・ヘリ活用 救命率向上とデータベース研究も 外科診療内容向上会  PDF

 協会は24年10月5日、京都外科医会と共催で外科診療内容向上会を協会会議室で開催した。京都外科医会副会長の正木淳氏が進行し、29人が参加した。協会の曽我部俊介理事から情報提供の後、外科医会例会の症例検討会が行われた。続く向上会では、田村外科の田村耕一氏を座長に、「病院前救急診療の現状―救命率向上に向けた取り組み―」と題して滋賀医科大学医学部救急集中治療医学講座教授・滋賀医科大学医学部附属病院救急・ 集中治療部部長の塩見直人氏の特別講演が行われた。

レポート
京都外科医会副会長
古家医院
古家 敬三(伏見)

 塩見直人氏は京都府出身で、1995年久留米大学医学部を卒業された後、救急医を目指して当時救急医療部がまだ開設されていなかった京都府立医科大学の脳神経外科に入局され研鑽を積まれました。その後済生会滋賀県病院の救命救急センターに移られてから救急医としての頭角を現され、2022年滋賀医科大学救急集中治療医学講座の教授に就任されました。
 講演では病院前救急診療の現場で重要なポイント、目的、システム、全国に展開するドクターヘリの現状を時にウイットに富んだエピソードを交えながら詳しくお教えいただきました。
 まず多数の傷病者が発生する災害医療で馴染みのあるトリアージの概念が救急医療の現場に適用できるかを解説され、救急患者の治療の優先順位を決めることと軽症患者を除外する点においてトリアージが必要で、逆に Walk-in 患者の中に致死的病態が潜んでいる事実にも言及されました。とりわけ胸痛と頭痛を訴える患者はICUに入院する可能性が高く、バイタルサインでは呼吸数とSpO2の異常が最も危険な兆候であると強調されました。
 次に病院前救急診療とは医師を現場に派遣して、現場で救急医療を行うシステムのことで、医師を現場に派遣する手段にはドクターカーとドクターヘリがあり、その目的は現場に医師・看護師を資機材とともに派遣し、早期医療介入を行い、患者の救命率向上、後遺症軽減を目指すことであると定義されました。
 一般にドクターカーは消防局からの要請を受けて消防救急車と2台が連携し、現場に向かいます。ドクターカーが現場に到着した時点で医師主導の診療が始まりますが、時には先に到着した救急救命士によりドクターカーが不要と判断されキャンセルになることもあります。各消防の指令センターでドクターカーの出動基準が決められているようですが、いわゆるオーバートリアージは許容されています。
 一方2001年に我が国に初めて導入されたドクターヘリは、現在全都道府県を57機でカバーしていますが、全国で唯一京都府は単独のドクターヘリを運航しておらず、済生会滋賀県病院を基地とする「京滋ドクターヘリ」が京都府南部と滋賀県全域をカバーし、京都府北部は公立豊岡病院組合立豊岡病院から、京都府中部は大阪大学医学部附属病院からドクターヘリが出動します。主に僻地の救急医療に強みを発揮するドクターヘリですが、1機年間約2億円の運用コストがかかり、常に熟練した専門スタッフを待機させなければならず、適切なランデブーポイントの指定が必要で、機内スペースが非常に狭く、夜間運航は原則としては行わない等の制約があり、現在関係学会の登録症例のデータベースを活用してドクターヘリの効果に関する研究が進行しているそうです。

講師の塩見氏

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