役所も間違える。おかしな判断をすることもある。なのに、いろんなことが役所に都合よくできていないか。
自分の仕事上の話で恐縮だが、堺市の母子世帯で生活保護費の多額の支給漏れが見つかった。特定行政書士として世帯主の女性の代理人になり、10月10日、大阪府へ行政不服審査請求をした。
女性はシングルマザー。生まれつき重度障害の子ども(現在は成人)が2人いて、生活保護を利用してきた。
昨年12月、知人の話から、自分の世帯の保護費が少ないのでは、と疑問を持ち、担当ケースワーカーへ伝えた。
相談を受けて筆者がサポートした結果、堺市側は、在宅の重度障害者がいる場合の家族介護料と、障害者加算、母子加算に支給漏れの時期があったことを認めた。
福祉事務所長は「最低生活を下回る暮らしを強いて申し訳なかった」と謝罪。今年2月と3月に、直近5年分の計212万円を追加支給した。
保護開始から約17年間の支給漏れは約625万円にのぼり、ずいぶん足りない。
しかし堺市側は「『生活保護手帳 別冊問答集』で遡及支給は5年が限度」「地方自治法でも金銭債権は5年で時効」として5年超の遡及に応じず、支給遅れに伴う遅延損害金(法定利息)も拒んだ。
時効は、権利を「行使することができる時から」起算するものだ。行政が何人も決裁してミスを見過ごしたのに、利用者側が気づけるのか。
そこで、5年を超える遡及支給と、全期間の遅延損害金を求めて審査請求した。
行政のミスなのに、ミスから5年たったら時効、遅延損害金も出さないという論法がまかり通ったら、被害者は損するばかりで、間違えた行政側には何の痛みもない。
この件の後、家族介護料の支給漏れが堺市だけで他に52世帯で見つかっており、全国でも相当あるだろう。
他の自治体では、算定を多く間違えていたから過去の保護費を返還しろと請求された例もある。すでに使っていることが多く、今から返還すると最低を下回る生活になる。
生活保護だけでなく、高額療養費、児童扶養手当、特別障害者手当などの支給漏れや過払いが各地で起きている。
間違いがあってはいけないけれど、現実にミスは起きる。
ところが、現行の法体系には、行政のミスを想定した救済ルールの規定がない。
特に社会保障、社会保険、労働関係は制度が複雑だ。窓口の縦割り、申請主義、さらに水際作戦もあったりして、行政と力関係の差は大きい。
行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法といった救済法はあっても、一般市民が自力でやるのは難しい。
裁判になると、国は訟務検事、自治体なら弁護士が受け持ち、それらは公費負担。
一方、市民向けには、法テラス(法律扶助)があるものの、収入・資産が少ない人に限定した法律相談と弁護士費用の立て替えにとどまる。
行政に対して市民の権利を擁護する仕組みを整えないとアンバランスだ。行政書士・社労士を含めて専門職のサポートを受けられる仕組みを公的に設けるべきではないか。
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