主張 「わしらの席は、もうどこにもない」超高齢社会でも全世代の保障を  PDF

 昨年あるテレビ局で放送されたドラマをきっかけに原作が読みたいと思い、藤子・F・不二雄氏の『定年退食』という短編漫画を購入した。政府が憲法に定められた健康で文化的な生活を守るため、食糧事情の悪化を理由に「定員法」という法律を制定し、ある年齢から年金、食糧、医療などの一切の保障を国が行わないという世界を描いたものだ。最後の場面で若者に席を譲れと言われた高齢者の「わしらの席は、もうどこにもないのさ」というセリフがとても衝撃的だった。1973年に発表された作品であるが、現在の超高齢社会の問題を作者が予見し、皮肉を含めて描いたのかもしれない。
 総務省が9月15日に発表した人口推計によると、65歳以上の高齢者は3625万人と総人口の29・3%を占め過去最高となった。2023年の労働力調査によると働く高齢者も増えており、4人に1人が就業し、65 69歳に限れば2人に1人となっている。特に慢性的な人手不足に直面している医療・介護の仕事では、10年前の2・4倍の107万人に増え、何とか医療や訪問看護・介護サービスが維持されていると思う。しかしながら加齢とともに視力、聴力、認知力などが低下していくことを考えれば、労働災害が増加する可能性もあり、適切な労務管理や医療現場での医療安全管理が必要となる。
 政府は高齢化対策の中長期指針「高齢社会対策大綱」の改定を9月13日に閣議決定し、後期高齢者の医療窓口負担が3割となる人の対象範囲拡大を検討すると明記した。年金の目減りや物価高などが高齢者の生活に重くのしかかっている中で、医療費の負担が受診抑制にならないことを願う。高齢期に働くと賃金に応じて年金受給額が減る「在職老齢年金制度」の見直しを含め、働き方に左右されない年金制度を構築すると提示しているが、少子化対策で医療保険料に「支援金」も上乗せされる中、全世代が納得できる社会保障制度が実現するのであろうか。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年には第2次ベビーブーム世代が65歳以上になり、高齢者率は34・8%まで上昇する見通しである。前述の漫画の世界にならないように、社会保障の持続可能な仕組みが提案されるかどうか注視していきたい。

ページの先頭へ