私のすすめる Cinema&Book『ハマのドン 横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録』  PDF

松原 文枝・著
株式会社集英社発行
2023年5月22日
1,056円(税込)

宇田 憲司(宇治久世)  「ここでは賭博はやらせない」反対への舵を切る

 最近、米国大リーグ・ドジャーズの大谷翔平選手が、通訳で付き人の水原一平氏に口座から約24億円超を詐取される事件があった。水原氏はギャンブル依存症で、多額の借金がかさんでいたとのこと。恐ろしげな話である。
 2019年8月「ハマのドン」こと藤木幸夫氏は御年91歳ながら、横浜港は山下埠頭へのカジノ誘致を阻止すべく立ち上がった。氏は地元財界人に顔が効き、歴代総理経験者や自民党幹部との人脈があり、叩き上げで隠然たる政治力を持つとされる保守重鎮の一人である。
 「カジノは儲かる。シンガポールもマカオも盛んで、横浜市でも財政がうんと豊かになる」と方々から頼まれ、氏も当初は誘致推進派であった。しかし2014年以降、広く勉強会を立ち上げ、横浜でIR(Integrated Resort:カジノを含む統合型リゾート施設)導入に向けた背景、海外事情、経済的課題を調査・研究し、「IRでは投資・運営する海外企業がその収益の多くを持って行き、地元への利益還元が見込めぬ企業戦略と判ったので、反対」意見となり、ディズニークルーズ等の代替え提案もした。ドキュメンタリー映画が撮られ、記録本もある。
 氏は沖仲仕としても働き、飯を食らい家族を養い、ここでは「仕事では汗を流すだけでなく、血を流す者も出た」「訳も分からぬ、苦労も知らない、人様のために働いたこともない、自分だけよければという奴らに金に飽かせてここに来られ、博打打って酒食らって帰られたんでは、ここで働いた人に申し訳ない」「カジノは要するに博打だ。博打で本人はおけら(ギャンブル依存症等)になり、家族が崩壊し、夫婦別れが起き、親子別れが起きる」「ここでは賭博はやらせない」と反対へと舵を切った。
 全米でカジノを約30件設計したニューヨーク在住の村尾武洋氏は氏の言葉に打たれ、横浜での記者会見で負の実態を公にした。
 2016年12月カジノ解禁法が成立した。翌年7月、政府中枢からの要請もあってIR検討を開始していた林文子市長が「IR白紙」を約して3期目当選し、さらにその翌年7月に「カジノ実施法」が成立し、刑法の賭博罪から外された。林市長は8月に「IR白紙」を撤回し、市民へはその十分な説明はなく、IRによる年間増収効果の額をカジノ業者側からの提示そのままに使用し、市側の検証も示せず、不信を残して年が暮れた。翌年は新型コロナウイルス感染症が蔓延し、外出抑制等の三密回避もあり、カジノ事業者の撤退が始まっていた。
 市長の任期切れ間近の2020年8月8日に市長選が告示され、林市長は4選出馬を表明した。菅内閣閣僚の小此木八郎氏が国家公安委員長を辞任し、「IR撤回」を公約に出馬して、菅総理は全面支援を表明。藤木氏は「主役は横浜市民、俺は脇役」と、住民投票の署名19万余筆を集めて頑張った無党派市民の会と連携して、選定を依頼した立憲民主党が推す横浜市立大学医学部教授の山中竹春氏を説得し、資金準備の上で支援した。山中氏は50万票以上を獲得して当選し、翌月IR誘致が撤回された。
 詳細は映画および本書をご参照下さい。

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