改正障害者差別解消法が4月施行 医療機関にも合理的配慮を義務化 あやめ法律事務所 弁護士 松尾 美幸  PDF

※本稿では法律上の表記に従い「障害者」と表記します。
1 改正のポイント
 2024年4月1日、障害者の差別の解消を促進する法律(いわゆる「障害者差別解消法」。本稿では単に「法」と言います)が一部改正されました。
 旧法8条2項は、もともと事業者の障害者に対する「必要かつ合理的配慮」を努力義務と定めていましたが、今回の改正ではこの義務が法的義務に改められました。
 「必要かつ合理的配慮」を欠いた事業者は主務大臣から報告を求められ、助言、指導、勧告がなされ、虚偽報告などには罰則が科されます(法25条)。また、損害賠償や必要かつ合理的な配慮を求める訴訟等を起こされる可能性があります。
2 要件
 法8条2項は、「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者※1から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢および障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と定めています。
 整理すると、以下 の要件を満たした場合は、必要かつ合理的な配慮が必要です。
  事業者の事業において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があること
  実施に伴う負担が過重でないこと
 2016年1月厚労大臣の障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン(以下「ガイドライン」と言います)によると、この の過重な負担を判断するにあたっては、事務・事業への影響の程度、実現可能性の程度、費用または負担の程度、事務や事業の規模、当該事業所の財務状況に応じた負担の程度を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとしています。また、加重な負担であると判断した場合は、その理由をきちんと当該障害者に説明しなければなりません。

3 合理的配慮について※2
(1)合理的配慮とは
 障害者の権利に関する条約第2条は、合理的配慮を「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権および基本的自由を享受し、または行使することを確保するための必要かつ適当な変更および調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失したまたは過度の負担を課さないもの」と定義しています。法はこの権利条約を踏まえたものですから、定義は概ね同じと思われます(参照:末尾の参考文献 )。
(2)合理性の判断にあたり考慮すべきこと
 前掲のガイドラインによると、
  事務・事業の目的・内容・機能に照らし必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られ、
  障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであり、
  事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないとされています。
 例えば、病院の敷地外の点字ブロックに障害物が置かれていた場合にこれを除去することは、 本来の業務に付随するものではないのでしなくても良いことになります。
(3)当該障害者の個性に配慮するために
 法8条2項は、「当該障害者の性別、年齢および障害の状態に応じて(中略)必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と定めていますから、障害者が子どもなら子どもが、女性なら女性が、高齢者なら高齢者が利用できるよう、個々人の特性に応じた対応が必要となりますが、これには事業者と個々の障害者との話し合いが必須です。
4 具体例
 例えば、ある患者から「個室で診察の順番を待ちたい」という要望があった場合、医療機関としてはどのような配慮が必要でしょうか。
 一律に「できません」と断ることは合理的配慮をすべき義務に反するので、できません。まずは、この患者の要望が障害等への配慮を求めるものか、もしそうであればそれはどのような障害等であって、その障害等によりどのような不都合を感じておられるかについて聞き取って下さい。仮にこの患者が、自閉症スペクトラム障害によって大勢のいる場所ではパニックになってしまうのであれば、やはり一人で待てる場所が必要でしょう。もちろん、医療機関の規模によっては個室の用意が過大な負担となる場合もあるでしょう。その場合も直ちに拒否をすることは避けて下さい(冒頭の行政処分あるいは民事責任を問われる可能性があります)。
 まず、医療機関は患者側に対し、個室が過大な負担になることを説明しなくてはなりません。その上で、例えば、車で来院される方には車内で待機していただき、順番が来たら携帯電話でお知らせする方法や、間仕切りで囲まれた場所を作る方法など、患者側が対応できそうな代案を提示して下さい。そのためには時に院内のルール・手順を変更する柔軟な対応が必要です。そうすれば、仮に患者側がかような代案に納得されず受診に至らなかったとしても、冒頭で述べた行政処分や民事責任を問われることはないと思います。
 もし、どういった配慮をすべきか悩まれた場合には、末尾の参考文献をご覧下さい。いろいろな検討事例や具体例が紹介されています。
 ただ、合理的配慮の義務化はまだ始まったばかりです。事案の蓄積は十分とは言えません。医療現場でお困りの際は、どうぞ京都府保険医協会にご相談下さい。

注意)
※1 障害者とは
 本法に言う障害者の定義について、法2条1号は、「身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害を含む)その他心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって、障害または社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」としており、障害者手帳の有無を問わず広く捉えられていることに、ご注意下さい。
※2 国公立病院の場合
 国や地方公共団体等が管理運営する国公立病院も、同様の合理的配慮義務を負っています(法7条2項)。合理的配慮の内容については、これらの病院にも該当するものと考えられています。
参考文献 全てウェブで入手できます
障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン(平成28年1月厚生労働大臣決定)
障害者差別解消法福祉事業者向けガイドライン(令和6年3月厚生労働大臣決定)
令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!(内閣府リーフレット)
医療機関における障害者への合理的配慮 事例集(厚生労働省ホームページ)
合理的配慮等具体例データ集/合理的配慮サーチ(具体例が検索できる内閣府のサイト)

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