2024 診療報酬こうみる 5  PDF

AMH測定検査の適応拡大
産婦人科 井上 卓也

 今回の診療報酬改定は産婦人科領域においてはそれほど大きな改定とはならなかった印象である。前回の改定ではそれまで自費診療として実施されてきた生殖補助医療(いわゆる体外受精・胚移植)が保険収載される大きな改定があったため、特にそう感じるのかもしれない。
 抗ミュラー管ホルモン(AMH)測定という検査がある。この検査は卵巣の予備能を測定する検査であり、不妊治療時に治療を生殖補助医療にステップアップすべきか判断する際や生殖補助医療時の排卵誘発剤の投与量の設定時などに有用な検査である。前回の改定でこの検査も保険収載されたが、算定が生殖補助医療実施医療機関に限られ、生殖補助医療管理料を算定した上でしか算定できないなど適応が限られており、適応範囲の拡大が要望されていた。今回の改定ではその適応範囲が拡大され、タイミング療法などの一般不妊治療の際にも算定が可能となった。また、生殖補助医療実施時には凍結された精子が用いられることが稀ではない。前回の改定では精子凍結保存に対する技術料は設定されておらず、これも診療上の不便を来していた。今回の改定で、精巣内精子採取術後と高度乏精子症患者においては精子凍結保存維持管理料が新設され、さらに患者の都合による精子の凍結も選定療養として保険診療中にその費用を自費徴収することが可能となった。
 一方で要望が認められなかった項目も多い。例えば、20年度改定の際に、産婦人科領域で初めての管理料である「婦人科特定疾患治療管理料」が新設された。これはホルモン薬治療を伴う器質性の月経困難症の治療・管理に算定が認められた管理料である。しかし、産婦人科領域ではこの他にも、更年期障害や不育症など外来での丁寧な問診や説明が求められる疾患が数多くある。以前からこれら疾患の診療に対する管理料の新設が要望されていたが、今回の改定でも新設は見送られた。
 次回の26年度改定では分娩の保険化が取り沙汰されている。もし実現されれば産婦人科領域では過去最大の改定となるであろう。分娩の保険化は政府の少子化対策の一つとして出てきたものであるが、分娩の保険化が少子化対策になるとはとても思えない。また分娩の保険化にはさまざま問題点が挙げられており、日本産婦人科医会などの関連団体も厚労省に慎重な対応を要望している。今後の動向を注視していく必要がある。

耳垢栓塞除去が大幅減点
耳鼻咽喉科 牛嶋 千久

 前回の診療報酬改定ではコロナ禍による大打撃を受けた耳鼻咽喉科への配慮が見られたが、今回は惨憺たる結果であった。
 大きく影響を受けるであろう初・再診、処置、投薬を見てみると、初・再診料はそれぞれ3点、2点の増点であるが、処方箋料が8点の大幅減点となった。また近年算定数が次第に増加していた耳垢栓塞除去の片側が10点、両側が20点の大幅減点である。耳鼻咽喉科診療の実態調査から推計すると、レセプト1枚当たりの減点数は一般名処方加算1(7点)を算定していた場合マイナス4.91点、同加算を算定していない場合マイナス8.665点と大きな打撃を被る。これを補完しようとすれば医療DX推進体制整備加算と外来・在宅ベースアップ評価料の算定が考えられるが、両者を算定してもようやくわずかなプラスが期待できるに過ぎない。外来・在宅ベースアップ評価料は全てスタッフの賃上げに充てる必要があり、実質マイナス改定となるであろう。
 検査では甲状腺、副甲状腺関連の血液検査が多くの項目で3 5点減点となっている。悪性腫瘍遺伝子検査のRAS遺伝子検査、BRAF遺伝子検査が認められたが、対象疾患に唾液腺がんや甲状腺がんが含まれないのは納得できない。EBウイルス核酸定量検査が上咽頭がんを疑う患者に対して、当該疾患の診断の補助または診断後の治療効果判定を目的として実施した場合算定可能となったが、それぞれ1回に限るとの規定があり、治療後再発を疑った場合に再度検査算定することは認められていないので留意が必要である。
 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料における情報通信機器を用いた診療に関わる評価として218点が新設されたが、同療法用治療器加算は40点の減点とされた。オンライン診療での算定は限定的であり実質大幅なマイナスである。
 手術ではK343-2経鼻内視鏡下鼻副鼻腔悪性腫瘍手術2その他のもの、K347-8内視鏡下鼻中隔手術 型(前弯矯正術)、347-9内視鏡下鼻中隔手術 型(外鼻形成術)が認められた。K358からK363の副鼻腔根治手術は現在ほぼ行われていないことにより削除された。
 かねてから要望事項として提案している高齢者・中等度難聴指導管理料は今回も認められなかった。難聴が認知症のリスクファクターであるとのエビデンスが認知されている今日、ぜひとも注力してもらいたい項目である。

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