梅雨の頃、ムラサキシキブ(紫式部)という名のシソ科の落葉低木は小さな薄紫色の花を多数咲かせる。秋には宝石のようなつややかな紫色の実をつけることから、知性と美しさを兼ね備えた平安の女性作家「紫式部」のイメージになぞらえ、このように命名された▼現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」では紫式部の半生が描かれている。女優の吉高由里子さん演じる主人公のまひろ(紫式部)が十二単を身にまとい舞った美しい雅楽「五節舞」は、平安時代に現在の形になり、一時期廃れたが再興され、今の天皇陛下即位の際にも披露された。古の美しさは時を超え、今なお人々を魅了する▼五節舞に見られる美意識の他に、わが国には古来より、困った時にはお互い助け合い、支え合う精神的な美意識がある。国民の健康を支える医療制度も元々この美意識に基づいて設計された。マイナンバー制度やオンライン資格確認、オンライン請求などIT技術を活用した新たなシステムが次々登場した現代においてこそ、わが国の伝統的美意識はますます重要性を増すだろう▼いずれの時代でも、どのような社会にも、美は存在する。そして美しさは新たな美しさを触発する。まひろの舞は現代社会の中で、未来の社会の中で、さまざまな様式の美を触発し続けるのである。(clear)
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