地域再生をめぐって
地方財政の充実とナショナルミニマム保障を
ここ2年足らずの間、私は日本最西端・与那国島に4回ほど通っている。島にあるにごり泡盛「海波」が目当て、というだけではない。2016年に自衛隊駐屯地が新設されて以来、島は大きく変貌しつつあり、その実態を確かめるためである。
人口1700人余りの島に沿岸監視部隊160人が駐屯、家族などを合わせると島の人口の2割に迫る。当初の話では監視部隊だけのはずが、近年になって米軍との合同軍事演習が行われ、電子戦部隊の配備が予定されている。今後さらに、ミサイル部隊の新規配備、駐屯地近くの沖縄県内最大の湿地帯を破壊し「特定重要拠点」としての大規模港湾施設を整備することなどが、次々と目論まれている。
2016年の自衛隊配備以降、島では学校給食センターや廃棄物焼却処理施設など、「島民の悲願」ともいうべき社会インフラが次々と整っていった。もちろんその全ては防衛省の事業であり予算である。あたかも、自衛隊配備による「恩恵」であるかのごとく。
こうした構図は、原発や核のごみ最終処分場など原子力施設の立地と同じである。つまり、本来はどの地域であっても国として保障すべきもの、すなわち、ナショナルミニマムとして保障すべき社会インフラであるにもかかわらず、そこに恣意的な財政措置があてがわれ、地域にとっては「恩恵」のごとく理解される。そして、地域の生き残りのためには基地や原発を受け入れるという選択肢しか残されていないと、住民は追い込まれ、応じてしまう。
この背景には地方交付税をはじめとした国による地方自治体への財源保障機能が、三位一体改革や平成の大合併以降、大きく後退させられてきたことがある。そのため財政的に厳しい周辺地域であればあるほど、原発や基地による恣意的な財政措置にすがらざるを得ない状況に追い込まれた。
しかし、基地や原発などの国策に未来を委ねる地域再生は、福島原発事故を思い起こすまでもなく、極めて危うい。巨額の基地・原発マネーで潤ったように思えても、それは一過性のものであり、かえって地域産業は衰退し、自律的な地域経済発展を阻害する。
与那国では基地建設によって活況を呈する土建業を尻目に、伝統的なクバの葉を使った民具作りや畜産で踏ん張る若者たちがいる。ここに真の地域再生の萌芽が見いだせる。こうした萌芽を支え励ますのが、地方自治体や地方財政の本来の役割である。その役割回復のための地方財政の充実が喫緊の課題となっている。
地方財政に加え、地域再生にとって大きな役割を果たすのが、医療や福祉・介護といったナショナルミニマムの充実である。周辺部であればあるほど、これら対人福祉サービスこそが地域内での一大産業であり、多くの雇用を生み出し地域経済を支えている。したがって、診療報酬や介護報酬単価の引き上げ・拡充によるナショナルミニマムの向上は、真の地域再生にとって不可欠である。社会保障運動と地方自治、地域づくり運動の連携が求められている。
せき・こうへい 1978年、秋田県生まれ。2005年、島根大学法文学部赴任。現在、同教授。一橋大学大学院経済学研究科にて博士(経済学)。福祉国家構想研究会副代表。専門は、財政学・地方財政論。主著:『地域から考える環境と経済』(共著、有斐閣ストゥディア、2019年)、『「公共私」・「広域」の連携と自治の課題』(共著、自治体研究社、2021年)、『地域社会の持続可能性を問う―山陰の暮らしを次世代につなげるために』(共著、今井出版、2024年)など。