理事提言 保険部会 坂本 誠 効率重視で突き進む医療DX 誰もが取り残されない政策を  PDF

 政府は「医療DX推進本部」を設置し、医療のデジタル化を進めている。医療情報を保険者、医療機関、薬局、介護事業者などで共有できるシステムを作り、さらに電子処方箋や標準型電子カルテなどで医療DXを推進している。患者個々の診療録や治療経過、薬剤投与歴などをデータ化し、医療機関間で情報を共有し、安全で効率的な治療を目指している。
 今回の能登半島地震やコロナ感染症などの非常事態で患者が救急搬送された際に、医療DXのマイナ保険証は患者の持病・治療経過などを迅速に確認でき、救命にも役立たせられるが、一方で現在トラブルも発生し、利用率は4%台程にしか達していない。
 医療DXとして開始予定の「全国医療情報プラットフォーム」は個人情報の流出などが懸念され、サイバーセキュリティの確保が必要である。患者の病歴・服薬歴などの情報を利活用する一方で、慎重な対応とサイバー攻撃に対する安全管理が欠かせない。
 医療DXに必要な電子カルテは病院と診療所で利用率に差があり、診療所の利用率は半数にとどまっている。政府は2030年までにほぼ全ての医療機関に電子カルテの導入を目標にしている。
 電子カルテの導入について、協会が実施したアンケートでは年齢により意見に差があり、デジタル化への苦手意識、初期費用、メンテナンス費用、クラウド型かオンプレミス型にするかなどの問題が多く噴出している。医療DXの推進には医療機関のみならず、マイナ保険証に不安を持つ患者や対応できない患者にも考慮した政策や代替策を設けることも必要である。
 医療DXという医療界におけるIT革命は、産業革命に似ている。産業革命では多くの人が職を失う一方で、新しくスキルを学び新しい職業を生み出し、種々の恩恵を享受する人がいた。同じような状況として、IT化の有用な側面を利活用し、的確で迅速な治療・診断に役立たせる人も出てくるが、効果的な治療などの恩恵から取り残され、煩わしさに悩まされるだけの人も出てくる。堅固なセキュリティの下で使い勝手の良いシステムが確立され、設備費用も補償された上で医療DXが進められるよう、協会は活動していく所存だ。

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