理事長談話
2024年2月22日 京都府保険医協会 理事長 鈴木 卓
中医協は2月14日、2024年度診療報酬改定について答申した。
医科本体プラス0.52%とされるが、蓋を開けてみれば「生活習慣病を中心とした管理料・処方箋料等の効率化・適正化」マイナス0.25%の影響により、汎用点数の多くが引き下げられており、愕然とした。小泉政権下による2002年度マイナス1.3%、2004年度±0、2006年度マイナス1.36%と並ぶ、衝撃的な実質引き下げとなる恐れがある。
初・再診料引き上げも吹き飛ぶ汎用点数の引き下げ
初診料3点、再診料2点、外来診療料2点、小児科外来診療料および各入院料の引き上げは、十分とは言えないものの、基本診療料の引き上げを繰り返し要求した診療報酬改善運動の成果である。静脈血採取、各注射の手技料も若干引き上げられた。
一方で、特定疾患処方管理加算1の18点の廃止、同2の10点引き下げ、処方箋料の各8点引き下げ、薬剤情報提供料の6点引き下げ、生化学(T)10項目以上の3点引き下げ、眼底三次元画像解析、耳垢栓塞除去、30分未満の通院・在宅精神療法やトリガーポイント注射など、汎用点数の引き下げが目に余る。
新型コロナの特例も点数表の中に溶け込んだが、点数は大幅に引き下がっている。なお、外来感染対策向上加算の施設基準が第二種協定指定医療機関であることに変更されている。今年12月末までに届出直しが必要だ。
外来・在宅、入院のベースアップ評価料が新設されたが、請求や窓口担当の事務職員は対象ではない。
外来
糖尿病・脂質異常症・高血圧の医学管理は生活習慣病管理料で
特に特定疾患療養管理料、特定疾患処方管理加算の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が除外された影響は大きい。これら慢性疾患の医学管理は、新設された生活習慣病管理料(U)333点を算定する流れへの移行が想定される。333点とは特定疾患療養管理料225点+外来管理加算52点+特処長56点と同点数だが、点数の性質、算定要件は大きく異なる。特定疾患療養管理料は「プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価」した点数だ。
一方、生活習慣病管理料は「生活習慣に関する総合的な治療管理を行った場合」に算定するとされ、初回およびおおむね4月に1回以上は療養計画書の交付が求められる。また、月1回しか算定できず、悪性腫瘍特異物質治療管理料、診療情報提供料(T)、薬剤情報提供料をはじめ、ほとんどの医学管理料と外来管理加算が包括される。(T)と異なり(U)は検査、病理診断、注射が包括外とはいえ、外来医療における診断群別包括支払い拡大の幕開けにならないか懸念する。
1943(昭和18)年の点数表創設以来、内科再診料として存在し、現在は丁寧な問診の評価として設定されている外来管理加算の行く末も、次回以降の改定でどうなるか懸念事項である。
在宅
引き下げられ、細分化された在医総管・施医総管
退院時共同指導料1を算定し、退院後、往診だけで亡くなられた場合もターミナルケア加算、看取り加算が算定できるようになったことは評価できる。
一方、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料が15点ずつ引き下げられた上に、より逓減された20〜49人、50人以上の区分が新設され細分化されたことは遺憾だ。直近3カ月の訪問診療回数が2,100回以上で、直近1年間の看取り実績20件以上等の要件を満たさない場合は、改編された10人以上の3区分は100分の60に減額される。
強化型支援診・支援病で各年5〜7月の訪問診療の回数が一定数を超える場合は、次年1月から在宅データ提出加算の届出を行うこととされた。
新型コロナ流行期において、感染を嫌い往診・訪問診療が増加した傾向はあるだろうが、回数に着目してペナルティのような減額やデータ提出を課すのは問題だ。
医療DX
マイナス分はDX推進で補えというのか
汎用点数引き下げの反面、初診料に医療DX推進体制整備加算8点が新設された。オンライン請求、オン資確認、マイナポータルから得られる診療情報の活用に加えて、@電子処方箋発行体制A電子カルテ情報共有サービス活用Bマイナ保険証の一定程度の利用実績C電子的診療情報を活用している旨の院内掲示とD「C」のウェブ掲載等が施設基準である。@は25年3月末まで、Dは25年5月末まで、Aは25年9月末まで経過措置がある。Bは24年10月1日適用である。つまり、オンライン請求、オン資確認、電子的診療情報の活用とCを満たしていれば、届け出ることで改定後から算定が可能だが、期日までに@ABD基準を満たす必要がある。「医療DX」推進の評価はともかく、政府の掲げたスケジュールに何が何でも間に合わせるために点数のパイを付け替え、目の前にぶら下げた感がある。「療養の給付」として妥当か甚だ疑問だ。
入院
地域包括ケアの完成形とは急性期医療から高齢者を遠ざけることだったのか
入院では政府が目指す“地域包括ケアシステムの完成形”を見せられた感がある。
急性期一般入院料1(7対1)の平均在院日数が2日間短縮された。同1の「重症度、医療・看護必要度」の該当患者の評価対象からADL評価であるB項目が除かれ、割合@(「A3点以上」または「C1点以上」該当割合)および割合A(「A2点以上」または「C1点以上」該当割合)の両者を一定割合満たすことが必要になった。必要度Tでは割合@21%以上かつ割合A28%以上、必要度Uでは割合@20%以上かつ割合A27%以上が必要だ。なお、急性期一般病棟入院料2〜5の該当患者の基準に変更はないが、該当患者割合には変更がある。
評価項目もA項目「1創傷処置」(重度褥瘡処置の評価の削除)「3注射薬剤3種類以上」(アミノ酸・糖・電解質・ビタミンの静脈栄養の除外)「6専門的な治療・処置(抗悪性腫瘍剤の内服・注射の使用割合の厳格化)」「7緊急入院必要状態(救急搬送後の入院の評価日数の短縮)」等で厳しく変更された。中医協ではシミュレーションを行い、最も厳しい変更で約2割が入院料1から脱落すると予想された。今回の変更はそれより若干緩和されたもののかなり厳しい変更である。「重症度、医療・看護必要度」が急性期病床減らしの方法として使われていることは問題であり、許しがたい。
一方、急性期一般入院料2〜5(10対1ベース)に対しては、新設の特定入院料である地域包括医療病棟入院料(3,050点/1日)への移行が誘導されている。主に高齢者の急性期医療を担う役割を期待されているようだが、リハビリ、栄養管理が要件付けられた回復期機能、さらに高い在宅等復帰率を達成する移行療養的な慢性期機能をも担わされている。従来からの政府の説明である「患者から見て分かりやすい病床機能の分化」とは真逆の「多機能化」であり、実際に地域で求められていたのが、このような多機能病床であったことを認めた側面がある。すなわち、「機能分化論」が実は「7対1病床」の削減のための方便で、論としては破綻しつつ、そこを糊塗して「実」を取った改定で、今後次期「地域医療構想」に大きな影響をもたらすと推測される。
中医協の形骸化に歯止めを
保団連の中医協レポートを通読すると、支払側が医療現場を無視した突拍子もない提案を行い、診療側が反論するも、公益側が支払側に賛意を示し、結果的に公益裁定で支払側の主張に近い形で落とし込まれている内容が散見される。「ドアインザフェイス」営業を見せられているようであり、鼻白むとともに怒りを覚える。1月31日の中医協では診療側の長島公之委員が「最近の公益委員の発言については、安心して公益裁定に委ねにくい。中医協での言動には公正・中立であることを自覚すべき。公益裁定結果には責任が伴うことも自覚すべき」と批判した。もっともな指摘だ。
23年3月1日に中医協公益側委員を辞した関ふ佐子氏(横浜国立大大学院国際社会科学研究院教授)は退任に当たり、「中医協の存在意義を揺るがすような政策決定が最近増えており大きな危惧を覚える」「協議を軽視するかのような政治の介入を残念に思う」「議論のプロセスを吹き飛ばすような政策決定は、じわじわと日本の医療保険制度の根幹をむしばんでいく。政治家等には中医協の形骸化の弊害をしっかりと認識してほしい」と述べている。国会議員や中医協委員にこの想いは届いているのだろうか。
今回も大臣合意で改定財源の使い道のほとんどが決定された。中医協の検討に委ねられた財源は、この間、20年度0.47%、22年度0.23%、24年度0.18%と激減している。そのため、改定内容はパイの喰い合いの様相を呈しており、診療所と病院、診療科ごとの分断を誘引しかねない状況だ。中医協の正常化も求めて行く必要がある。各科の変更内容の解説は、次号以降の本紙に掲載する「2024診療報酬改定こうみる」に委ねたい。