主張 コロナ禍で浮上した年齢差別患者に寄り添う努力が課題に  PDF

 2024年度の診療報酬改定の内容が明らかになってきた。医療従事者の賃金の確保と併せて、高齢者人口がピークを迎える2040年を見据えた医療提供体制の充実が期待される。新型コロナで逼迫した医療提供体制の克服も切実な課題だ。しかし、医療費適正化、医療資源の効率的・重点的な配分、医療DXを通じた経済成長への貢献を目指す内容はその充実に程遠い内容である。
 一方、協会が取り組んできた新型コロナの「留め置き」問題は若干の前進もある。高齢者の急性疾患の受け入れ体制が打ち出されたことである。急性期病棟からの移行先の側面があるものの、急性期病棟と連携する地域包括医療病棟が新設され、リハビリテーション・栄養管理・入退院支援・在宅復帰などの機能が強化された。急性期病棟でも強化する方針だ。全体として高齢者の特徴に対応した救急受け入れ体制の整備が一歩進むことが期待される。
 コロナ禍で、日本老年医学会、日本救急医学会、日本プライマリ・ケア連合学会などが年齢差別を排する声明を繰り返し出してきた。「われわれ医療者は、高齢者の皆さまへの医療提供を一律に年齢で区切るようなことはいたしません」という日本救急医学会の表明が代表的だ。介護施設などと協会が取り組んできた留め置きの問題意識とも重なる。協会などの運動と世論が反映された面がある。
 引き続き注視すべき課題もある。コロナ禍で見られたDNAR(蘇生措置不同意)に対する誤解はその一つである。DNARは「心停止時にCPRを行わないがその他の医療・看護行為は全て実施する」ことだ。日本集中治療医学会の会員調査(16年)では「認知症、高齢、日常身体活動能力が低い、身寄りがない、緊急入院などの患者に、一人の医師が1回の説明と同意のみで、あるいは患者(患者家族)の意思確認なしでDNARを決定し、酸素投与から生命維持装置に至る治療の不開始、差し控え、中止を日常的に実施している」実態が報告された。同学会の努力で18年にはDNARの理解度は上がったが、課題も多い。ガイドラインや教育、臨床倫理支援の仕組みなど広範に及ぶ。集中治療に限らず全ての医療機関の課題といえる。
 コロナ禍では「高齢者は集団自決を」発言と映画『PLAN75』の不気味な符合を目の当たりにした。苦しみ揺らぐ人と家族に医療が寄り添い、患者と医療者の溝を埋めていく努力を続けていく必要がある。良い医療を実現するために最も大切なことだ。

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