公開研究会 命と暮らし守る地域づくり自治体主導の地域経済循環が鍵  PDF

 福祉国家構想研究会は12月2日に公開研究会「岸田政権の『新しい資本主義』をどうみるか―社会保障、少子化対策の動向にも踏み込んで―」を全労連会館ホール(東京)で開催した。京都橘大学教授の岡田知弘氏が「『新しい資本主義』論と経済安保体制の危険性―岐路に立つ世界・日本・地域―」、佛教大学客員教授の横山壽一氏が「岸田政権の社会保障政策」、名城大学准教授の蓑輪明子氏が「異次元少子化対策の何が問題か」を講演した。

 岡田氏は、コロナ禍以降、ロシアによるウクライナ侵攻や中東戦争の再開で地球規模で命の危機にさらされ、世界は激動の時代に入っていると説明した。これらを背景に日本では岸田政権が誕生した。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は新自由主義・アベノミクスを批判した総裁選挙当時から、政権発足以降は定義も中身も度々変わっていると指摘。むしろ今は新自由主義の考え方が生んだ弊害は認めるものの、新自由主義そのものは批判せず、経済再生を打ち出した成長戦略を強調している。さらに経済安全保障政策を加速させ、巨額の国費を投じた半導体工場の誘致の一方で、学術・研究機関への支配介入を強めるなどの動きに警鐘を鳴らした。
 アベノミクスは株価や大企業の純利益・内部留保を増加させたが、国民の賃金に還元されず、円安・物価高で実質賃金はマイナスになっていると評価。中小企業の社会保険料の負担軽減、消費税の引き下げと法人税の累進課税の強化など、税と社会保障の仕組みそのものの改革が必要と説いた。
 コロナ禍では感染初期に徹底したPCR検査を実施した和歌山県をはじめ、医療機関への支援策や中小・小規模企業への休業補償の実施など、自治体独自の取組みの広がりなど、地域社会に新たな展望が見られたと紹介。今必要なことは足元の地域に視点を置いた内部循環経済を確立することとし、中小企業・地域経済振興基本条例を活用した自治体主導の地域づくりの重要性を強調した。
 横山氏は、岸田政権の社会保障政策は経済の成長手段に位置付けられている点を特徴に挙げた。分配・生活不安の解消・看護や介護労働の処遇改善・少子化対策はあくまで経済成長の阻害要因であるために除外が必要という考え方である。社会保障の課題を官民連携による新たな市場化で解決していく動きは警戒すべきとした。国民は岸田政権の社会保障政策の矛盾を見抜いており、全ての国民が無条件に生活保障される社会の仕組みが必要とした。
 蓑輪氏は、近年共働きが増加し、家族形成や妻の所得状況で格差が広がっていると説明した。専業主婦世帯は余裕のある家族ばかりではなく、子あるいは妻自身の病気や障害などの事情を抱えるケースも少なくないと指摘。岸田政権の異次元の子育て支援政策の「児童手当の拡充」「高等教育費の負担軽減」は共働きの高所得者世帯がターゲットで、低賃金正規労働者・非正規労働者・一人親世帯などの貧困層が置き去りにされていることが問題とした。少子化対策に必要なことは、一人でも暮らせる生活保障システムと財源を生み出す経済づくりだとした。
 当日の模様は研究会ホームページで配信中。
https://www.shin-fukushikokka.org/site/

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