国はマイナ保険証への移行に向け、今年12月2日に健康保険証を廃止すると閣議決定した。医療現場で期待されるのは、デジタル技術の活用によって患者に提供される医療の充実、患者の利便性の向上、医療従事者の負担軽減につながることである。しかし、国の進める医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は医療者が望む方向に向かっているのか。協会は医療情報の連携が「患者のため」になされるよう提言をまとめた。協会が求める医療情報共有の仕組みは表の通り。全文は後日「医療政策関連情報」に掲載する。
医療DXは岸田政権の「新しい資本主義」政策の柱として経済の成長分野の中に位置付けられ、収集した医療情報を政策や民間企業で利活用することに重点が置かれている。マイナポータルを経由した医療情報は患者自らの閲覧、医療機関間等での共有を可能にするだけではない。国は民間企業でのヘルスサービス開発によって経済成長を図り、同時に個人の行動変容や民間の健康商品活用によって公的医療費の抑制を狙う。
診療報酬改定DXにおいては、「共通算定モジュール」を開発し、全ての医療機関にオンライン請求を実施させ、標準的な電子カルテを実装させた上で、レセコンと電子カルテ情報を紐付けて診療報酬請求を行わせることが想定されている。これは患者それぞれに必要な医療の提供を困難にし、標準的な治療の普及・推進へとつなげ、包括点数化を大きく後押しする危険性がある。
医療情報は患者や国民のものである。にもかかわらず、個人情報保護の規制緩和を進め、「公益」を金看板に民間営利企業の医療情報利活用を推進することは保険医療の向上という本来の目的から逸脱する。そもそも国の進める医療DXには医療情報の利活用の視点ばかりで、国民等の自己情報コントロール権の観点がない。情報削除権、自己情報が使用される場合の通知・確認制度、医療情報を扱う者への罰則規定強化等の基準がない。少なくとも、患者自身が医療情報を提供する・しないを選択し判断できる仕組みが必要である。
医療情報の共有はマイナンバー制度を使わずとも、被保険者番号で可能である。被保険証番号は個人単位の固有の番号であり、保険者の変更があろうが、そのまま一生涯変わらない医療番号として存在し、通用し続ける。情報連携を被保険者番号で構築すれば、オンライン資格確認の義務化や保険証廃止の必要はない。漢字の揺らぎなどの制度設計の問題が指摘される現在のマイナンバー制度を絡めず、セキュリティを強化したシンプルな設計での医療情報共有システムを求めたい。
協会が求める医療情報共有の仕組み
① リアルタイムに患者の医療情報が共有できること
② EHR・PHRともに、医療以外に患者情報が利活用されることがないよう万全のセキュリティを構築すること
③ 医療情報は患者のものであり、自己情報コントロール権保障を法制化した上でその活用の制度設計を行うこと
④ 医療情報の一次利用は、診療の場での的確・迅速な診断・治療を補助するものとすること
⑤ 医療情報の二次利用は、医学研究・学会活動・創薬・治験等に限定すること
⑥ システム導入にかかる必要経費は全額国費で負担すること
⑦ インフラ整備ができない医療機関への人的サポートの仕組みをつくること