迷惑患者には弁護士対応の検討も
(70歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
患者は自宅で腰痛を来し、救急搬送により本件医療機関に入院となった。同日、医師はレントゲン検査の結果、骨折の所見はないとして腰部脊柱管狭窄症と診断し床上安静を指示した。ところが、患者は看護師の指示に従わず、導尿などを拒否し独自歩行でトイレに行くなどのトラブルが続いた。入院から約2週間後、軟性コルセットを装着の上で退院したが、患者は腰痛が改善しないため通院を継続していた。その間に医師が入院当初のレントゲンを再確認したところ、第12胸椎椎体骨折が認められた。
患者側は当初口頭で多額の賠償金を請求してきたが、その後交渉するたびに一生面倒を見てもらえればいいなどと要求内容を変え、自宅の庭の手入れや換気扇の修理を医療機関側に申し入れるなど、さまざまな言動が見られるようになった。
医療機関側としては骨折の見落としは認めたが、仮に入院当初に骨折を診断できていたとしても、手術の必要はなく安静加療による治療を開始するのみであったため、患者に実損が認められないことから、賠償責任は認めずに見舞金名目で数万円を提示した。患者はいったん示談に応じて見舞金を受け取ったが、後日、気が変わり、本件医療機関に寄付名目で返金してきた。その後、頻回に本件医療機関に出向き、窓口などで大声でクレームを言い続けたため弁護士対応とした。
その後、患者側も弁護士に相談し訴訟を申し立てた。
紛争発生から解決まで約4年11カ月間要した。
〈問題点〉
カルテには疼痛を訴える部位について理学所見の記録がなく、触診していなかった点は整形外科学的に問題があったと考えられる。しかし、結果的には遅滞なく安静治療の指示と軟性コルセットの装着がなされており、仮に第12胸椎椎体骨折が初診時に診断されていたとしても同様の処置となっていたはずで差異はないと判断された。今回のように、患者が過大な要求や窓口などでクレームを繰り返し、診療業務に支障を来すケースでは、弁護士を入れることも検討すべきであろう。
〈結果〉
第1審は医療機関側が勝訴した。患者側は控訴したが棄却され、医療機関側の勝訴が確定した。