多くの診療所が実質マイナス改定の危険性 保険医の切実な要望に背いた政策改定の撤回を 理事長 鈴木 卓  PDF

 2024年度診療報酬改定について財務省・厚労省大臣折衝が23年12月に行われ、2月には中医協の答申が予定されている。協会は懇談会やアンケートで寄せられた会員の意見を基に、24年度改定に向けて厚労省と懇談や要請を実施。今回の大臣折衝を受け、理事長談話を発表した。

談話・改定率合意に対して

 23年12月20日、鈴木俊一財務大臣と武見敬三厚生労働大臣が大臣折衝を行い、2024年度診療報酬改定率を合意した。2012年自公政権発足以来最も高い本体プラス0・88%と報じられたが、前回改定同様、「注文だらけ」の大臣合意となっている。
 ①看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、24年度にベアプラス2・5%、25年度にベアプラス2・0%を実施するための特例的な対応プラス0・61%②入院時の食費基準額の引き上げ(1食当たり30円引き上げ)の低所得者への対応(低所得者は所得区分等に応じて10~20円)プラス0・06%③生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化マイナス0・25%④「③」を除く改定分はプラス0・46%(うち医科はプラス0・52%)にとどまる。
 ④の中には、40歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げに資する措置分(プラス0・28%程度)も含まれているため、合意に影響されない本体の引き上げ財源はプラス0・18%に過ぎない。
 これでは感染防止対策の充実、初・再診料の引き上げ、在宅医療の同一建物、単一建物の取扱いの解消、汎用技術料の引き上げ等、多くの課題に対応することができない。
 新規技術の導入も勘案すると、改定率からは多くの保険医が望む改定とはなりえない。保険医の切実な要望に背いた政策改定に断固抗議する。政府は合意内容を見直し、③の管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化をやめるとともに本体改定率をより引き上げるべきだ。
 なお、薬価マイナス0・97%、材料価格マイナス0・02%(計マイナス1・00%)を勘案したネット(全体)の改定率はおよそマイナス0・12%となる。薬価・材料価格引き下げ分はまたも本体に充当されなかった。

狙いは外来管理加算・特定疾患改悪とリフィル誘導

 問題は③生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化マイナス0・25%である。財務省「令和6年度予算の編成等に関する建議」では、診療所の報酬単価の適正化を繰り返し主張している。中医協では、支払側委員が「外来管理加算を廃止せよ」「かかりつけ医機能の評価として特定疾患療養管理料は適切ではない」と声高に叫び続けている。
 つまり、多くの診療所では実質マイナス改定になる可能性が高い。そのターゲットは、再診料の外来管理加算、特定疾患療養管理料の改悪と、リフィル処方箋への誘導である。
 新型コロナウイルス感染症の対応のため、多くの医療機関が献身的に発熱外来対応を行ってきた。その努力に対する報いが実質マイナス改定では堪ったものではない。
 入院医療では7対1急性期病棟における「重症度、医療・看護必要度」からB項目(患者のADL状況や意識レベルを評価)を削除する方向が確認された。廃止した場合、高齢者の救急搬送先は減少、一刻を争う救急患者が診断・治療にアクセスしにくい状況となり、高齢者差別を誘導する可能性がある。
 また入院時食事療養費が1食30円引き上げられるが、これは患者負担増によるもので、人件費や業務委託費相当部分の引き上げはない。保険給付を引き上げて対応すべきである。
 さらに長期収載医薬品については、24年10月から後発医薬品との薬価の差額の4分の1を患者負担化(選定療養化)することも大臣合意されている。「療養の給付」本体の選定療養化であり容認できない。また、これが実施されれば、後発医薬品の供給が不安定な中で、さらなる混乱を招くことは必至であるのはもちろんのこと、窓口業務の混乱も招く。断固撤回させなければならない。

医療介護の人材確保には診療報酬増を

 賃上げ措置分も「コメディカル(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く医療関係職種)の給与の平均は全産業平均を下回っており、うち看護補助者については全産業平均を大きく下回っている」「医療介護分野とも、人材確保の状況が悪化するとともに、有効求人倍率は全職種平均の2~3倍程度の水準で高止まりしている」と指摘される状況を打開するには十分とは言えないことは明らかである。ましてや「看護職員処遇改善評価料」のような複雑で事務手続きが煩雑な点数になれば使い勝手は悪くなる。基本診療料本体に上乗せされるべきである。
 「療養の給付」の現物給付たる診療報酬の改善により、社会保障を充実することが何よりも求められている。その確信を胸に、協会は中医協が答申するまで粘り強く改善要請を続ける。
2023年12月27日

2024年度診療報酬改定

1.診療報酬 +0.88%
※1 うち、※2~4を除く改定分+0.46%
各科改定率 医科 +0.52%
      歯科 +0.57%
      調剤 +0.16%
40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分(+0.28%程度)を含む。
※2 うち、看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種(上記※1を除く)について、2024年度にベア+2.5%、2025年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応+0.61%
※3 うち、入院時の食費基準額の引き上げ(1食当たり30円)の対応(うち、患者負担については原則1食当たり30円、低所得者については所得区分等に応じて10~20円)+0.06%
※4 うち、生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化▲0.25%
(注)2024年6月施行
2.薬価等 ①薬価   ▲0.97%
②材料価格 ▲0.02%
   合計 ▲1.00%
※イノベーションのさらなる評価等として革新的新薬の薬価維持、有用性系評価の充実等への対応を
含む。
※急激な原材料費の高騰、後発医薬品等の安定的な供給確保への対応として、不採算品再算定に係る特例的な対応を含む。(対象:約2000品目程度)
※イノベーションのさらなる評価等を行うため、長期収載品の保険給付の在り方の見直しを行う。
(注)2024年4月施行(ただし、材料価格は2024年6月施行)

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