コロナ体験記出版プレ企画 コロナ禍の4年を振り返る 未来に向けて チーム化で挑む在宅医療リーダーシップと共感が要  PDF

よしき往診クリニック
守上 佳樹 医師 対談 鈴木 卓 理事長

 2020年1月に日本で初めて新型コロナウイルス感染症感染者が確認されてから4年が経った。京都府保険医協会ではコロナ禍で医療現場の第一線で具体的に何が起こっていたのか、会員の体験記を集めて総括した体験記の出版を予定している。それに先立ち、2021年2月にコロナ専用の往診チーム“KISA2隊■ルビ/キサツタイ■”を立ち上げ、自宅療養者の往診に尽力されてきた京都市西京区の医療法人双樹会よしき往診クリニックの守上佳樹■ルビ/もりかみよしき■医師に、鈴木卓理事長が聞いた。

守上「自分たちでやってみる。ボトムアップが大事」
鈴木「感染者が増え、現場では目詰まりが起きた」
鈴木「新しい人にどう組織に入ってもらえるか」

地域の在宅医療の壁
24時間365日対応

 鈴木卓理事長 まずコロナ前の診療の様子を教えていただけますか。
 守上佳樹医師 私は2017年4月に“断らない”“病態によって往診できるかできないかを決めない”を方針に、往診を中心とするクリニックを開業し、医師は30代から40代の若手を中心にチームをビルドアップしました。
 勤務医時代に診ていた85歳の患者さんが、最初は2~3週間に1回外来に来られていたのが、1カ月に1回、3カ月に1回とだんだんと来られなくなり、5年も経つと家族の方が薬をもらいに来られるケースを見てきました。当時、地域連携室に病診連携で在宅で診ていきたいと相談しましたが、実際に24時間体制で在宅を診られる医療機関はまだまだ少なかったのです。だったら自分がやることで少しでも地域に貢献したいと考え、開業しました。それが37歳の時です。コロナ前は常勤・非常勤医師は20人程、コロナを経て40人程になりました。その内常勤医師は7人です。
 鈴木 開業医が外来医療の空き時間に在宅医療をしようと思っても、10人診れたら良い方だと思います。やはり、守上先生のところとは体制が違います。
 守上 西京区でも多くの開業医の先生が在宅に行かれていますが、5人程度です。懸命に休み時間を在宅医療に費やし、身を粉にして必死に動いても、外来がメインだと数人の管理しか現実的にはできない。在宅医療が進まないのは24時間対応が難しいからです。何とか24時間対応ができても、その次の365日のハードルが厳しい。特に年末年始やゴールデンウィーク、お盆の対応は負荷が大きいと思います。私は地域医療連携推進法人の中で、夜間や長期連休の往診を肩代わりする仕組みができないかと考えています。
 鈴木 在宅医療はグループで対応しないと現実的にはやっていけないですね。内科以外や多職種との連携も重要になります。
 守上 コロナ禍の経験を経て感じるのは、現場から提示していくしかないということです。まず自分たちがこれならできると思うことをやってみる。ボトムアップが大事だと思っています。もちろん、初めは周りからは本当にできるのかという意見もあると思いますが…。さらに実際に動いていく時は、地域の調整会議や医師会とのすり合わせも必要になります。
 鈴木 国が考えている地域医療連携推進法人は、大きな病院と病院、あるいは病院と介護等施設での連携です。でも、大きな病院は利害関係もあり、なかなか進まないのが現実です。
 守上 国主導の事業だと現場でのリーダーシップが取り難いですよね。目の前で患者さんが亡くなるのを見てきて、在宅医療をもっと広げていきたいと感じていました。在宅医療を担う医療機関をサポートする大きなリーダーシップを見せることがこれから在宅医療が発展していく一つの突破口になるのではないかと考えています。
「このままでは大変なことに」
コロナ専用の往診を開始

 鈴木 本題のコロナ禍の状況をお聞きします。
 守上 2020年6月頃、日本は高齢者が多いので、このまま感染が増えれば大変なことになると強い危機感がありました。そのためにコロナ専用の往診が必要ではないかと、仲間を集めながらプランを練っていました。
 年が明けた1月に80代の自宅療養者が入院先が見つからず亡くなる事態が起こりました。その後、京都府入院コントロールセンターの先生からコロナ専用の往診ができないかと打診があり、私たちのプランとも合致して、1週間程でコロナ専用往診チームを一気に立ち上げることになったのです。
 鈴木 京都府入院コントロールセンターからの依頼と通常の患者さんを診るとなると、相当数の患者さんを診ておられたのではないですか。
 守上 私ともう一人の医師(宮本雄気医師)が自分たちのクリニックを完全に抜ける形で、コロナ専用の往診チーム“KISA2隊”を立ち上げました。担当していた患者さんには緊急事態なのでと納得してもらい、他の医師に任せました。当時コロナの死亡率は5%超。前例もデータもないままでのスタートです。補助金もなかったので、全て自前での対応でした。
 鈴木 感染者が増え、現場では目詰まりが起きました。主な原因がPCR検査の制限、保健所業務の逼迫でした。そのあたりでお困りになったことはありましたか。
 守上 検査キットは不足していましたが、当初診ていたのは1日30人程でしたので何とかやりくりできていました。その頃の府内のコロナ病床数は312床。自宅で入院しているイメージですので、京都府全域のコロナ病床を10%増やすことができるような対応で、少しは貢献につながったのかなと。感染防護具などの物資は寄付していただき、何とか賄っていました。
 鈴木 マスク不足も大変でしたね。協会は会員医療機関へマスクや消毒液供給状況の緊急アンケートを実施し、京都府へ感染対策の強化を要請しました。マスコミにも取り上げられ、現場の大変さを発信していました。
 守上 N95のマスクは1人5個を支給し、1日1個を使い、使い終わったら消毒して個人ごとのボックスに保管して、次の日は別のマスクを使う。72時間空けたらウイルスの感染力がなくなるので、5日分をそうやって繰り返していました。
 移動も大変でした。自分たちで運転しながら次の訪問を考えて動いていくのは難しいと判断し、往診車を手配するためタクシー会社に連絡しましたが、当時は感染が怖いと断られ続けました。唯一協力してもらえるところを見つけ、往診専用のバンを手配できました。運転は運転手に任せ、医師と看護師で往診に行くことができました。内装も工夫し、空気が前から後ろに流れるように感染対策を徹底しました。自分たちのクリニックだけでできるものではないと、看護師や薬剤師にも声をかけて仲間を集めていきました。そうして、地域も法人も違う“超法人連携”VS“コロナ”が出来上がりました。
 鈴木 守上先生自身は疲弊しなかったですか。
 守上 モチベーションは何とか維持できていました。2021年5月頃は自宅には帰らず、部屋を借りて1カ月程はそこで生活していました。第3波頃には状況が変わってきました。海外の論文を読み込み、自宅療養できるというデータも確認し、自分たちの取り組みを示していくことで、手伝いたいと仲間が加わってくれるようになりました。この頃から看護師、薬剤師、歯科医師、PT、介護職、栄養士などの仲間が加わり、KISA2隊の取組みもスピードアップし、組織として重層化してきました。補助金が出るようになったことも大きいですね。
 鈴木 守上先生が中心となって賛同仲間が集まっていった流れですね。京都府としては全体的なシステムが打ち出せていなかったともいえます。府全体をカバーするなら、守上先生のような取組みのできるところが五~六つは必要になるでしょう。
 守上 そうですね。京都市内はほぼ全域カバーできましたが、府内まではなかなか難しかったです。府内ではクラスターが起きた施設に支援に行きました。ゾーニングの指導から職員のメンタリティのフォローなどもしていました。
 鈴木 治療薬ができて対応にも変化がありましたか。
 守上 治療薬がステロイドしかなかった時は血糖コントロールが難しかったので、大きく改善しました。抗体カクテル系の治療薬を在宅で初めて使ったのは、全てKISA2隊です。特例承認だったため、実際にどう使ってどう効果があるかを知りたい医療機関はたくさんあったので、適応症例をしっかり見極めた上で積極的に導入して共有していきました。そうして地域でコロナを診ていける医療機関が増えていけばいいと思っていました。
 鈴木 普段在宅で経験するのは、点滴をした後の抜針を対応してもらうところがなく、結局医師が対応せざるを得ないことです。時間と手間がかかります。そのあたりでの苦労はありましたか。
 守上 私たちのプロジェクトに賛同する訪問看護ステーションと協力しながら進めていきました。マンパワー的にとても助かった点です。診療報酬の加算ができて、後押しされた面もあります。
 鈴木 賛同する全てのところと一緒にやってこられたのですか。
 守上 相手がどのようなところかはしっかりリサーチします。その上で、実際にお会いして一緒に取り組んでいけるかを見ています。大きな組織になればなるほど、現場での決裁権がなく、素早い対応ができないことが多いのでその点も気にしていました。
 鈴木 ヘルパーの方との連携もできていましたか。
 守上 最後まで医療と介護の連携の難しさはありました。医療現場では普段タスクシフトがありますが、逆タスクシフト体制、つまりヘルパーが行けないなら看護師、看護師が行けないなら医師が行く体制をとりました。上の者は大変になりますが、現場はそれで何とか回せます。
 鈴木 京都府の入院コントロールセンターから連絡があって、守上先生たちが往診に行かれ、隔離解除までフォローされる流れですか。
 守上 かかりつけ医が行けないところをKISA2隊が行きます。1回行って、その後フォローし、めどが立ったところで、かかりつけ医に戻します。ただ当初は感染が怖くて、かかりつけ医も不安になられることがありましたが、データを示して感染はしないので大丈夫と伝えてお願いしていました。
 鈴木 往診で診られた方が重症化した時は入院につなげることはできましたか。
 守上 ほぼつなぐことができましたが、救急車や病院の救急外来で一晩粘ってもらって乗り越えたこともありました。
 鈴木 第6波以降は施設で入所者が感染された際に入院できない問題が多くありました。居宅では隔離できても、施設ではゾーニングできずにクラスターが発生して重症化していく負のスパイラルとなる。入院できなかった事例や2、3日交渉してやっと入院できたということも聞いています。
 守上 入院が必要なのに入院してもらえない患者さんの依頼がKISA2隊に回ってきていたと思います。私たちが診ていた患者さんは、今往診に行かなければ亡くなってしまう、中等症Ⅱ以上の方が中心です。
 鈴木 在宅酸素も取り寄せて対応されていたのですか。
 守上 在宅酸素が品薄になった時は業者の責任者に直談判して協力してもらいました。夜中に電話をしたら今から持って行くと言ってもらった時は本当に頼もしかったです。私たちもチームとしてギリギリで対応していた頃です。

仲間が増えると
チームの総合力が高まる

 鈴木 守上先生のような若い中堅世代の方が頑張っておられることは心強いですね。開業医の平均年齢は60~65歳です。若手の開業医にどう組織に加わってもらえるのかは協会の課題の一つです。
 守上 若手にどう仲間になってもらえるかはどの組織にとっても課題となっているのではないでしょうか。今は何とかなっても、20年後は今より大きな課題となるのは間違いないと思います。そのためには、若手が参加したくなるプロジェクトを作ることが重要だと思います。仲間に入って何か違うなと思われて抜けられることがあっても気にしないこともポイントかと。新しい人が入ることで確実に総合力は高まります。いろいろな人が入ることで組織も重層化していくと思います。
 鈴木 年齢を重ねていくとモチベーションを維持することも難しくなってきます。
 守上 日本の組織は新しい人が入ってもしばらく様子を見ようとしますが、私は新しく入って来られた人には思い切って仕事を任せるようにしました。もちろんこの人なら大丈夫と自分の目で見て確かめてからですが。KISA2隊は京都から始まり、全国各地で組織されていますが、他府県で新しく立ち上げる時は必ず自分でその地域に行って、空気を肌で感じるようにしています。地域で様子は違うので行かないと分からないからです。自分の目で見て、ここならこんなことができるのではないかと感じたこともアドバイスします。
 鈴木 西京区では在宅を頑張っておられた北村裕展先生(故人)がおられました。
 守上 私が開業した時、北村先生が毎週のように飲みに連れて行ってくれたんです。北村先生が西京医師会の会長を辞められた頃で、その時に、「医者とは…」「保険医協会とは…」「医師会とは…」何たるかをいっぱい教えていただいたんです。北村先生が語られていた組織論はガチガチの体育会系です。私にはそれが合っていたのだと思います。自分が行く、自分が責任を取る、その代わり強く主張する。私はKISA2隊を作ってメディアにも取り上げてもらい、革新的と捉えられているかもしれませんが、むしろ北村先生の魂を引き継いで伝統的というのが実感です。北村先生からは「20年後は考えているのか」と、よく聞かれました。
 鈴木 北村先生は保険医協会の理事として長く活躍いただいていました。北村先生とそのようなお付き合いをされていたんですね。

志を同じくする人が集まった
この経験は大きな前進

 鈴木 コロナが収束後、次の新興感染症が起こったら、最初は治療薬がなく同じようなことが繰り返されることになります。今回のコロナである程度ノウハウはできたと思いますが、これからについてどう考えておられますか。
 守上 コロナ禍で、未知の感染症に対して志を同じくする人が集まりチームを確立するまでの過程を自分の目で見たことは大きな経験となりました。次に何かあった時はこのメンバーでまた集まることができると確信しています。それは大きな前進だと思います。
 鈴木 国は今後の新興感染症に向けて法改正しました。コロナでの現場での目詰まりが検討されて改善されるかという点では疑問を感じます。保健所が役割から外され、医療機関に任されることになります。
 守上 現場でこうしたいと思っても、いろいろなところと調整が必要になってくるので、どこの誰と話をすればいいのか、その機会がほしいですね。そのあたりは、私はまだまだ勉強不足だと感じています。
 マイナンバーカードの問題も今大きな問題になっていますね。でも新しい制度についていけない人は必ずいます。ICTやDX化を冠にすると近代化ハラスメントにもつながります。選択肢がない社会の仕組みは危ういですよね。政策提言はできませんが、周囲とも情報共有しながら、現場でしっかり経験を積んでいきたいと思っています。
 鈴木 マイナンバーカードを巡る問題では協会でも議論して、厚労省への要請を続けています。
 守上 医療機関の現場の人が入って議論をすべきですし、40代くらいの世代が自分たちの20年後の将来に関わってくると認識して、しっかりと議論に入って制度設計していくべきですよね。
 鈴木 これからの在宅医療の展望をお聞かせいただけますか。
 守上 今は往診専門といわれるクリニックですらも、疲弊しているところが多いです。やはり医師一人ではずっと続けることができない。一人の医師が24時間頑張っても、3年でバーンアウトしてしまいます。その改善策としてチーム化があると思います。チームとして担うことで、まずは5人の患者を診ておられるところが7人診られるようになれば良いのではないでしょうか。
 平素の医療をどう力強く回していくかが今後の在宅医療の発展につながると信じています。まだまだやらなければいけないことがたくさんあります。
 鈴木 守上先生の周囲を巻き込んでいく力は素晴らしいと思います。本日は貴重なお話をお聞きできました。ありがとうございました。
(2023年11月6日対談)

KISA2隊■ルビ/キサツタイ■
Kansai Intensive Area Care Unit for SARS-CoV-2 対策部隊
 2021年2月、守上佳樹医師がコロナ専用往診チームを京都府と連携する形で立ち上げ、京都市を中心とした約150万人を対象に、コロナ自宅療養者への往診を開始した。当初数人で始まったプロジェクトだが、賛同した薬剤師、歯科医師、PT、介護職、栄養士などの仲間が加わり、積極的に活動した。2021年9月にはKISA2隊大阪が結成され、その後全国で組織。北は北海道、南は奄美大島まで17地域で展開している。

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