医療デジタル化のあるべき姿へ転換を。政治の優しさフォーカス
理事長 鈴木 卓
新年明けましておめでとうございます。会員の皆さま、ご家族、従業員の方々、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
ともどもに良き年を希求したいところですが、現今の国内外の状況を見ていますと、そうともいかないようです。昨年後半は、国内医療関係ではマイナンバーカード保険証の義務化が大きな社会問題になりました。誰一人取り残さない政治を掲げて登場した岸田政権が、多くの国民や医療者にデジタル難民を生み出し、トラブル続出でも立ち止まらず猛進しています。世界へのメンツとIT業界利権のためなのでしょうか。この強硬手法はかえって、日本社会のデジタル化への桎梏になると思われます。
IT先進地域として世界が瞠目している台湾の立役者オードリー・タン氏は、「デジタル化によって国民を支援するはずだったのが、デジタル技術への適応を強制してしまっては権威主義になってしまい本末転倒です。政府側は常に、強制ではなく支援する方にフォーカスしたいと考えています」(東洋経済ONLINE、2022年5月17日)と述べ、デジタル技術への切り替えも本人に余地を与える、途中経過を透明化する「デジタル民主主義」を成功の理由に挙げています。これこそ、デジタル先進国の教訓です。そして政治の優しさです。残念ながら日本政府は世界から何も学んでいません。京都府保険医協会は日本の医療デジタル化のあるべき姿について根本的な転換を提起します。
本年の医療界にはこの他、新型コロナ、インフルエンザ、医薬品安定供給、かかりつけ医、医療・介護従事者待遇改善、診療報酬・トリプル改定、地域医療構想、働き方改革…等々、さまざまな課題が山積しており、協会はこれらにも取り組んでいく所存です。
一昨年来のウクライナに続き、昨年はパレスチナで大規模武力行使が展開されています。その下で多くの市民、子どもたちが犠牲になっています。病院が攻撃の対象になる、許されざる状況が現出しています。この現実は核抑止力や軍事力に関して新たな教訓を示しています。すなわち、いかに軍事費をつぎ込み、どれほど兵器・銃弾を揃えようと、いったん戦端が切られれば、核兵器によらずとも万余の市民・子ども・傷病者の犠牲を生み、全国民に長期間にわたり恐怖と苦難の生活を強い、安全・安寧の日々を根底から破壊してしまうことです。日本の場合、都市は焼土と化すでしょう。すでに生身の戦争体験者はほとんどいなくなった日本ですが、戦争のリアルが見えました。そこでは、国民医療は絶対に成り立たちません。戦争を起こさせないことこそが国民が守られ、文化的生活が享受でき、真っ当な医療が受けられる国防の最高戦略だと思います。とすれば、外交、インテリジェンス、経済・文化・人的交流がいかに重要かが浮かび上がってきます。本年が、これらの戦争を止め、世界が多様な価値観の存在を認め合い、尊重し、軍事一辺倒の発想を転換させ、世界平和への確実な第一歩が踏み出された年として記録されることを熱望しています。
皆さまにおかれましても、本年が平和と安心の中で進取の気持ちが満たされ、活躍が保障される年となりますことを心より祈念しています。