京都の観光問題を考える 観光公害と京都ブランド 辻 俊明(環境対策担当理事)  PDF

④ 京都ブランド 京都住民の認識はどれほどか

 世界のセレブが愛読する「トラベル+レジャー」誌の2014年世界人気都市ランキングで京都が1位に選ばれました。世界の人々は京都のどのようなところに魅力を感じているのでしょうか。
 若き日に「源氏物語」に魅せられ、京都名誉観光大使に任命されたこともある文学者ドナルド・キーン氏(1922年―2019年)は、こよなく京都を愛したことで知られています。氏は京都の魅力を著書で次のように語っています。
 1、これぞ日本と思わせる歴史ある風景は京都にしかない
 2、和風の旅館で過ごす体験は、忘れ得ぬ思い出である
 3、京都には、きれいで楽しいお土産がある
 4、訪れるたびに新しい発見がある。奥が深い
 5、丁寧に見て歩くと、歴史を感じさせるものを自分なりに発見できる
 京都の街を詳細に観察した日本文学者の言葉であります。アメリカ人でありながら、ドナルド・キーン氏は他の誰よりも京都の魅力を熟知し、その価値を十分認識していました。これほど個性的な魅力に溢れる都市は京都以外にはないと断言しています。氏が京都の中に見出した魅力としての価値、これこそが京都ブランドです。アメリカ人文学者が認識したこの価値を、我々日本人、あるいは京都の住人はどれほど認識しているでしょうか。美しい街並みが年々消えてゆき、景勝地が観光客の波に埋もれている現状を見ると、この認識はとても低いと感じます。
 欧州のブランドは、日々その価値を高める努力をしています。それは彼らがブランドの価値を十分認識しているからです。我々も彼らを見習い、京都の価値を漫然と語るのではなく、ブランドとして認識し、その価値を高める努力をする必要があります。京都はブランドです。他の都市にはないブランドなのです。そのようにして確立されたブランドは安売りするようなものではありません。京都ブランドは決して安売りしてはいけないのです。
 日本を訪れる観光客は2019年に3188万人に達し、消費額は約4・8兆円と国内総生産(GDP)の約1%に達しました。 コロナ禍に伴う入国制限でこれがほぼ消えましたが、コロナ後、政府は訪日客誘致を成長戦略の柱に据え、2030年の訪日客を6000万人に増やす目標を掲げています。しかし、京都が今後も有効な対策を取らず、今まで通り無秩序に多くの観光客を受け入れることになれば、街の魅力は半減し、その結果京都を訪れる人はいなくなり、住民も去ってゆくことでしょう。京都ブランドを高く掲げること、そしてそれをどこまでも守り抜こうという強い意志を持つこと、この二つのスタンスは、これからの京都の環境問題、観光問題と向き合うにあたり何よりも重要であると考えます。
(了)

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