京都の観光問題を考える 観光公害と京都ブランド 辻 俊明(環境対策担当理事)  PDF

③ ブランドを考える
歴史と格式で成り立つ価値の本質

 ブランドに関するイメージをまとめると、おおよそ次のようになります。質の良さ、長く続く価値、格調の高さ、唯一無二の存在など。欧州ではブランド品というものは、その質の良い品を持つにふさわしい人が持つものであり、もしブランドを持ちたいなら、まずは自分の内面を磨き上げなければならないといわれています。
 エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン、グッチ、プラダなど欧州のファッションブランドを例にとれば、どれも100年以上の歴史があり、伝統だけでなく格式も兼ね備えているものばかりです。専門の職人による高い技術から生み出される確かな品質は、芸術作品に例えることもできます。さらにブランド側は、信頼感・高級感などの個性、顧客に与えるイメージなどの心理的な価値を、その商品に付け加えます。ひとたび個性あるブランドとして価値を高めることに成功すれば、他の商品との差別化が可能になり、価格競争に巻き込まれることはありません。何十年、何百年を越えた歴史の中で、その価値を落とさないために格式を維持しようと奮闘し続けた精神的な努力が商品に付加される。ブランドの価値はこのようにして形成されるのです。
 ブランドの持つ意味を見誤った例を紹介します。アメリカの新車市場において日産自動車は、2016年頃まで米国シェア10%を目標に販売台数を伸ばすことに心血を注ぎました。その増販を支えたのは、顧客への大幅な値引きを軸とした薄利多売の販売戦略です。しかしアメリカ市場の成長が頭打ちになると、日産の販売戦略は行き詰まります。値引きしても従来ほど売れなくなったのです。その背景にあるのは、価格競争でシェアを広げる戦略に心血を注ぐあまり、新車開発が停滞し、ブランド力やデザイン、性能など商品そのものの価値の強化が後回しになってしまったという事実です。こうした長年の安売りで消費者に染み付いたバーゲンブランドのイメージを払拭するのは、たやすいことではありません。今後、日産自動車には値引きに依存せず、付加価値を高めた新車を継続的に開発、投入して車自体の魅力で売ってゆくという基本に立ち戻ること以外にブランド回復への道は残されてはいない。これが多くの識者の見解です。
 以上の例に示されている通り、ブランドとは人々の頭の中にある抽象的な概念であり、物に付加的に追加された個性ある価値観であり、抽象的であるが故、価値の本質を成すものといえます。

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