主張 一口に医療DXと言うけれど ~中途半端DXと危険な今後の法律改正~  PDF

 政府の強権的マイナ保険証義務化の主要論拠は医療DXのためということであろう。これは一見一理あり、そこが日本医師会や多くの医療者も反対できない、または推進論のよりどころとなっている。しかし、そのメリットとして政府が国民に説明しているのは「重複投薬をなくし、効率化できる」程度である。もちろん医療者はその先の種々のメリットを期待しているのであろうが、その内容は実に曖昧である。ある医学雑誌では「病院内情報伝達システムをIT化して効率化された、これが医療DXだ(要約)」とあった。このような理解もある。DXにはいろいろあるということである。
 一例として、今回、政府が考える重複投薬の防止は、「患者が過去にかかった複数の医療機関の1月半前までの処方内容が電子的に見えて、医師がそれをチェックして自分の処方を考慮するシステム」となる。これがDXということだが、お薬手帳を見るのと大差はない。重複薬チェックはすでにレセプト審査機関が突合点検で行い、医療機関に通知し、削除・減点する制度がある。それでは別制度の電子処方箋を普及させれば良いか? この場合、重複薬などのチェックは調剤薬局でなされ、その後に医療機関に通知され削除・修正となる。多少の改善程度である。では、医師が求める真の医療DXでは? 「電子的処方箋作成のタイミングで患者の全処方薬との照合ができ、重複や併用禁忌薬がリストアップされ、リアルタイムで処方内容修正ができて、正しい処方箋発行」となる。このような姿ではないだろうか。
 医療データの共有・連携でも同様に医療者の夢と実際では乖離がある。医療者が夢見ているDXを実現するには、今のシステムでは不可能である(一方、医療データ第三者提供などの裏の目的は着々と実装されていく)。最近、政府はこの中途半端DXが暴露されたことを口実にして、新たに全医療機関の電子カルテデータを収集する制度への法律改正を検討し始めた。これは大問題で、今のシステムに屋上屋を重ねてできあがるのは、理念、システム基盤の問題を含め抜本的変革なき極めて危険なシステムとその運用になる。今後、随時検証していきたい。

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