保険証問題で談話と要望 廃止撤回と国から証持参の呼びかけを  PDF

 厚生労働省は7月10日、保険局長通知(以下、通知)「マイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない場合の対応について」を発出した。
 マイナンバーカードで資格確認ができない場合について、患者自身のスマートフォンなどでマイナポータルにアクセスして資格情報の画面を提示するか、持参している健康保険証で資格確認できない場合は、患者に被保険者資格申立書の記入をお願いする。それにより患者自己負担分(3割等)の支払いを求める。過去に受診歴があり、その時から資格情報が変わっていないことを口頭で確認し申し立て書に記載すべき情報を把握できている場合は、申立書の提出があったものとして取り扱うことができる―などの対応が示された。
 マイナンバーカードを巡っては全国保険医団体連合会のトラブル事例調査によって、資格確認ができないため窓口で10割負担を求められるケースが多数(6月19日発表分で1291件)明らかになった。この批判を受けて、「オンライン資格確認のシステム運用マニュアル」(支払基金、国保中央会)が6月2日に改訂され、「10割負担を受領」から「券面に記載された生年月日情報に基づいて自己負担分(3割負担等)をお支払い」に変更された。通知は、厚労省としてあらためてそれを示したものである。
 これを受けて、協会は首相、厚労相宛の要請書と談話を7月20日にまとめ送付した。

多くの疑問や課題を内包

 要請書は、通知および事務連絡(7月4日、「オンライン資格確認等システムを活用した薬剤情報等の閲覧により診療等を実施する場合における確認について」)は、医療機関での窓口業務の際に協力を求める内容となっているが、非常に煩雑な事務対応が求められているだけでなく、示された対応では、▽実際に保険料を支払っているかどうかの確認はできない▽停電時などは「システム障害時モード」が使用できない▽顔認証不具合時の「目視」確認の判断基準と責任の所在が不明確▽保険証を持参していないだけか有効な保険資格がないかが窓口では分からない▽「被保険者資格申立書」への明らかに不正確な記載への対応が不明▽「被保険者資格申立書」で負担割合が「わからない」と記載された場合の対応が不明▽マイナンバーカード持参の場合、美容医療等保険診療対象外を除き自費診療があり得ない仕組みとなっている▽費用を保険者などで按分する場合に、本来不要な公金支出が発生し得る―など多くの疑問や課題が内包されていると指摘。
 そこで、次の2点を要望。①窓口での資格確認トラブルを最小限にとどめるために、国から、マイナンバーカードにより受診する場合であっても、国民に被保険者証を併せて持参するよう呼びかけること。②被保険者証を廃止しないこと。廃止を取り止める法整備が整うまでは、廃止を凍結すること。

保険証を残すだけで解決

 談話は、資格があるのに窓口で資格確認ができないために10割負担を求められるというのは、本来あってはならない事態であるが、保険証を忘れた患者に医療機関が個別に「月内に持ってきて」という対応をすることと、マイナンバーカードの対応も「保険証と同じようにやって構わない」(河野デジタル担当大臣)と発言して、国が原則を曲げてしまうのはまるでレベルが異なると指摘。そのためにいくつもの行程や矛盾が増えて、患者や医療従事者だけでなく、自治体や保険者、審査支払機関にも手間やコストが積み上がっていくことを批判。
 また、政府がカードを持たない人に発行する資格確認書を申請がなくても交付する検討に入ったという報道に対し、高齢者など申請が困難な方々が保険診療から遠ざけられてしまうという不安や不信感を受けてのことで、現行方針よりましなことは間違いない。だが、数千万人規模に保険証と同じ機能のものを一律交付するコストと手間を考えれば、いよいよ保険証廃止の必要性が揺らぐ、とした。
 通知は医療費負担について、「最終的に保険者を特定できなかった場合には、災害などの際の取り扱いを参考に、保険者などで負担を按分」することを示した。談話は、まさに災害レベルの事態を引き起こしているのは、国民の声を聴けない政府自身であることを自覚すべきとし、マイナ保険証と並行して現行の健康保険証を残すだけで解決することを強調した。

医療安全対策の一層の推進を目指して

 2022年度(22年6月~23年5月)も会員からさまざまな医療事故に関する報告・相談が寄せられた。
 22年度の主な特徴として、①医療事故報告件数は23件にとどまり、ここ5年間で最も少ない(新型コロナウイルス感染症が影響したかどうかは不明)②事故報告数の病院・診療所比率は、病院が診療所を上回った③紛争原因別では「注射」に関するものが最多―などが挙げられる。また、これまで協会で受け付けた全事故報告の内98・3%が解決に至り、依然として高水準を保っている。
 22年度も会員医療機関に日常診療における「安心」と「安全」をより一層高めていただけるようさまざまな医療安全に関する取り組みを行った。
 その一環として、医療安全講習会を3回開催した。その内、「採血時の神経損傷」をテーマにした講習会では、京都協会の会員と全国の保険医協会・医会の会員医療機関から合わせて452人の参加があった。この問題の全国的な関心の高さが窺えるとともに、講習会後のアンケートからは患者対応に苦慮している様子もよく分かり、あらためてこの問題への取り組みの重要性を認識した次第である。
 22年度の紛争原因別では「注射」が最多となったと前述したが、その大半は採血時のトラブルであり、協会にも毎年必ず相談が寄せられる事案の一つである。本講習会では、医師と弁護士にそれぞれの立場から適切な診断方法や患者対応などを解説いただいた。現在、協会ホームページで動画配信しているので、ぜひ視聴いただき、「いざ」という時の備えをお願いしたい。
 医事紛争や医療事故が起こった際に、適切な対応ができるかどうかは日々の研修の積み重ねが重要と言っても過言でない。今年度も会員各位が日々の医療安全(紛争対応・紛争予防)に取り組む上で、参考となる講習会の企画をはじめ、医療安全に関する有益な情報発信に努め、医療安全対策の一層の推進を図りたいと考えている。

図 厚生労働省「マイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない場合の対応」より

何らかの事情でその場で資格確認を行えないケース

1.「資格(無効)」、「資格情報なし」と表示された場合
※保険者による迅速かつ正確なデータ登録を徹底し、こうした事象自体を減らします。
2.機器不良等のトラブルによりオンライン資格確認ができない場合
(例)
・顔認証付きカードリーダーや資格確認端末の故障
・患者のマイナンバーカードの不具合、更新忘れ
・停電、施設の通信障害、広範囲のネットワーク障害など

資格確認 ※1・2

【可能であれば、いずれかの方法で資格確認をお願いします】
・マイナポータルの資格情報画面(患者自身のスマートフォンで提示可能な場合)
・保険証(患者が持参している場合)
【上記の方法により資格確認できない場合】
・受診等された患者の皆様に、被保険者資格申立書の記入をお願いします。
※過去に当該医療機関等への受診歴等がある患者について、その時から資格情報が変わっていないことを口頭で確認し、被保険者資格申立書に記載すべき情報を把握できている場合には、被保険者資格申立書の提出があったものと取り扱うことが可能です。

窓口負担

患者自己負担分(3割等)を受領

レセプト請求

1.現在の資格情報の確認ができた場合は、当該資格に基づき請求をお願いします。
2.1が困難な場合でも、過去の資格情報(保険者番号や被保険者番号)が確認できた場合には、当該資格に基づき請求をお願いします。
3.1・2のいずれも困難である場合には、保険者番号や被保険者番号が不詳のままでも、請求を行っていただくことが可能です。
※この場合、診療報酬等のお支払いまでに一定の時間をいただくことがあります。

・受診等された患者が加入している保険者が負担します。
※過去の資格情報に基づき請求されたレセプトや、資格情報不詳のままで請求されたレセプトについても、審査支払機関において、可能な限り直近の保険者を特定します。
・最終的に保険者を特定できなかった場合には、災害等の際の取扱いを参考に、保険者等で負担を按分します。

医療費負担

※1 顔認証付きカードリーダーで顔認証等がうまくいかない場合には、モードを切り替えて、医療機関・薬局の職員の目視により本人確認を行っていただくことも可能です。
※2 その場で又は事後的にシステム障害時モードを立ち上げて、資格確認をしていただくことも可能です。

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