第673回社会保険研究会
講師:厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長 安藤 公一 氏
協会は5月13日、第673回社会保険研究会をハイブリッド形式で開催。参加者は49人(会場15人、ウェブ34人)。安藤公一氏が「後発医薬品の安定供給に向けて」をテーマに講演した。安藤氏は厚労省「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の所管課長である。同有識者検討会は6月9日、報告書を公表した。
供給不安定化の主な背景には、①後発品産業における過当競争と薬価下落、少量多品目生産による低効率・低収益のビジネスモデルの発生など、安定供給を確保する上での産業構造上の問題②現行薬価制度では、薬価改定ごとに薬価が下落するが、薬価を下支えする仕組みが限定的で不採算品目が多くなるなど、後発品企業の経営を圧迫する現行制度に起因する課題③サプライチェーン上にあるリスクの顕在化や、医薬品の供給情報が一元的に把握・共有できない課題―がある。
供給不安の現状と背景
国内には後発医薬品メーカーが200社近く存在する。数量ベースで後発品市場の50%を上位8社が、残り50%を185社が占めており、小規模メーカーが多く、「少量多品目生産」の非効率な状況に陥っている。a先発品の特許切れ直後に後発品として薬価収載する際の薬価が原価率に比べて高く設定されるため、その際に共同開発で複数企業が参入b同時収載品が多く過当競争となり、総価取引(総価山買い)の調整材料とされて薬価が大幅下落c収益が見込めなくても最低5年間は市場撤退できないd収益確保のため一定程度利益が見込まれる特許切れ直後の品目を上市する―という負のスパイラルを繰り返し、「少量多品目生産」の製造効率の悪化が止まらない。
工程増の非効率、管理上の不備やコンタミ(汚染・混入)などによる品質不良のリスク増大、緊急増産などへの柔軟な対応が困難―などのデメリットが生じ、「少量多品目生産」は品質や安定供給の問題の最たる要因の一つになっている。問題が起きて出荷停止・回収されると、その企業のシェア分への先行き不安からの注文増加に対応できないメーカーが出荷制限し供給不足が生じているが、業界全体として増産が困難なため長期化している。
薬価基準制度上の問題
後発医薬品全体で製造原価が薬価の80%を超える品目、つまり販売管理費・卸への費用・消費税などを含めると赤字になる品目が3割以上を占め、その中には安定確保医薬品や基礎的医薬品といった、医療上の必要性の高い医薬品が存在している。市場に流通している医薬品は、市場実勢価格加重平均調整幅方式に基づく薬価改定により価値が評価されている。その上で、保険医療上の必要性が高いものは安定供給を図る観点から、特例的に薬価を維持または引き上げる仕組みがある(基礎的医薬品、不採算品再算定)。前記以外の品目は「最低薬価」により、最低限の供給コストが設定されている。
サプライチェーン上の課題
①潜在的な供給不安の調査②特定国・特定サプライヤーへの過度な依存など、脆弱なサプライチェーン構造への対策③関係者間の情報共有、連携強化―が検討課題である。特に②は、22年に成立した経済安全保障推進法により、抗菌性物質製剤が特定重要物資に指定。国内製造体制構築の支援を行っている。③は、医療用医薬品供給情報緊急調査事業を開始、日本製薬団体連合会が実施する供給情報調査を毎月行わせることとした。医療提供側の情報提供も必要と考えている。
流通に関する課題
薬価差については、薬価基準制度における市場実勢価格加重平均値調整幅方式の下では、制度的に一定の薬価差は想定されている。その際、薬価差の確保や販路拡大の値下げ販売により発生するものが問題になっている。許容される合理性を超えて過度な薬価差が発生している場合は、適切な市場流通の確保の観点から是正を求めていくことが考えられる。
流通実態から見ると、医薬分業の進展を受けて薬局への販売額が増加している。販売先別の乖離率をマクロでみると、薬局、特に20店舗以上の調剤チェーンの乖離率が高くなっている(200床未満の病院・診療所を100とした場合の乖離指数が183)。
20店舗以上のチェーン薬局・200床以上有する病院の取引は、他の取引先と比較して総価取引(総価山買い)の割合が非常に高くなっている。この総価取引では、後発品や長期収載品が値引きのための調整に使用されるため、乖離率がより高くなる。最近は価格交渉代行業者が現れ、卸と交渉。往々にしてベンチマーク(一定の水準)を設定して、薬価差を取るような取引が実態として行われている。
最低薬価が適用された品目でも薬価差が生じており、特に安定確保医薬品でも平均乖離率が高い傾向にある。後発品は競合品が多く競争が激しく価格を下げている。また後発品や長期収載品は、総価取引の値引きの調整弁として価格が大きく下がることがあり、乖離率が大きくなっていると想定される。最低薬価対象品や安定確保医薬品も、医療上の必要性などが考慮されずに、総価取引の調整弁として扱われ、乖離率が大きくなっている状況と想定される。これが後発医薬品の薬価基準を引き下げる原因となり、赤字の構造を生んでいる。
今後の取組み
「安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書(23年6月9日)では、後発医薬品を将来にわたって安定供給するため、以下の検討課題を掲げている。
①少量多品目生産の解消のため企業や品目の統合を推進。品目統合に併せた製造ライン増設などの支援について検討。
②安定供給を担保できない企業参入を抑制し、安定供給可能な企業を評価するため、企業情報を踏まえた新規収載や改定時薬価の在り方を検討。
③薬価改定による採算性の永続低下を避けるため、医療上の必要性が高い品目について、現行薬価を下支えする仕組みの改善を検討。中長期的には新たな仕組みの構築も検討。
④後発品の供給不安問題や原材料・原薬の海外からの調達問題など、国の経済安全保障にも関わる構造上の供給リスクに対処するため、医薬品のサプライチェーンの強靱化が必要。
⑤医薬品のさまざまな供給リスクに対処するために、流通関係者において迅速にサプライチェーン全体の情報が共有化される仕組みが必要。
今後具体化に向けて取り組んでいきたい。